副社長は花嫁教育にご執心


昨日、灯也さんの話に出てきた発言で、どうしても気になるものがあった。

『まつりの友達に聞いたよ』――その、“友達”とは誰なのかということだ。

友達は何人もいるけれど、灯也さんのことを知っていて、かつ彼に私の話をするような友人は、一人しか思い当たらない。

佐助のことを話したのも、彼女にだけだ。信じたくはないけれど、一度湧いた疑念はみるみるうちに私の心を黒い雲のように覆ってしまって、今では彼女と普通に話せる気がしない。

できることなら、彼女であってほしくない。でも、もしも今までのことがすべて彼女の仕業なのだとしたら……。

いろいろな思いを巡らせながら、いつものように自転車で職場へ向かった。到着したのはちょうど九時半ごろ。

彼女は今日、早番勤務だから、ちょうどロッカー室へ来ている時間のはず……。

一歩一歩、その部屋に近づいていくたび、心拍数が上がって、手のひらに汗がにじんだ。

なんて切り出せばいいんだろう。いつものように“まつりちゃん、おはよう”と言われてしまったら、私はどんな顔をしたらいいんだろう。


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