副社長は花嫁教育にご執心
というわけで、なかなかない五連休を獲得した私たち夫婦。元日は家でまったりと過ごし、二日である今日は、晴れ着姿でとある方の家を訪ねていた。
ツバキの咲く広い庭を通って、見えてきたのは風情のある和風の邸宅。
襟を正してチャイムを押せば、すぐにガラ、と引き戸が開いた。
出迎えてくれたのは、身長が低く可愛らしい、白髪の男性。お会いするのはまだ二度目だけど、椿庵で金婚式のお祝いをさせてもらったことが記憶に新しい、黒川会長だ。
「明けましておめでとうございます」
「黒川会長、今年もよろしくお願いします」
夫婦そろってお辞儀をすれば、会長はゆるりと目を細める。
「おお、よく来たな。さぁ、上がりなさい」
「お邪魔します」
着物姿の灯也さんと微笑み合い、玄関に上がる。
さまになるのはスーツ姿だけでなく、着物も見事に着こなす旦那様に見惚れて忘れてしまいそうになるけれど、今日の目的は、黒川会長ご夫妻への年始のごあいさつ。
そして、灯也さんが仕事のことで会長に相談があるのだそう。
通された広い客間には、奥様の鈴子さんのほかに、見知らぬ夫婦が一組、豪華なお節の並んだテーブルについていた。
……誰なんだろう、あのご夫婦。
そう思いながら会長に促され、私たちも席に着く。皆を見渡せる、テーブル端の中央に会長と奥様。そしてその両側で、二組の夫婦が向かい合うように座った。