副社長は花嫁教育にご執心


しばらくふたりで電車の往来を眺めていたけど、それから支配人は廊下を出て行き、一分ほどで戻ってきて私に尋ねた。

「まつり、風呂入るだろ? シャワーだけじゃ寒いし」

あ、そうか。お風呂を沸かしにいってくれてたんだ。

「すみません……お言葉に甘えてもいいですか? でもそういえば私、着替えも何も」

さっきは酔っていたから“泊まる”ということを深く考えていなかったけど、冷静さを取り戻してきた今になって、何の準備もないことに気が付く。

「下着はすぐ洗えば寝てる間に乾くだろ。服は明日も同じになるが仕方ない。寝るとき用の部屋着は何か貸してやるから」

「ありがとうございます。……あの、明日って……一緒に出勤するんですよね?」

昨日と同じ服で、支配人と一緒に出勤……。なんだか変な噂をされてしまいそう。

「周りの目を気にしてるのか? それなら心配ない。お前が結婚を承諾してくれた翌日に、俺たちが夫婦になる予定であることは施設の各部署に一斉メールをしてあるから」

「あ、そうでしたか」

それなら大丈夫ですね……って、なるかーい! なにその一斉メールって! 私、何も知らなかったんだけど! 同僚たちも何も言ってこなかったし……。


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