副社長は花嫁教育にご執心
あっという間にやってきた、旅行当日。時刻は正午ごろ。
冬山の気候に耐えるため普段よりも厚着をしている私は、灯也さんとともに、東京駅から新幹線に乗り込んだ。
「私初めてです。夢のE7系……!」
「そのなんとか系っていうの、言うと思った。グランクラスは俺も初めて乗るけど、なかなかだな」
灯也さんが予約してくれたチケットは、自由席でもなければ指定席でもなく、しさらにグリーン車でもない、グランクラスという最高グレードの座席だ。
「ああ……この座り心地。軽井沢で降りるの勿体ないですね」
「ああ。新幹線におけるファーストクラスだと言われているのにも納得だな」
上品なアイボリーの本革シートに深く腰を沈め、しばし幸せな気分に浸る。
相変わらず杏奈さんに関する不安は拭えずにいるし、行先ではいやでも顔を合わせることになるのだろう。
それでも、灯也さんと二人きりでいる今は、久しぶりのお出かけが単純にうれしい。しかも、こんな豪華な列車でなんて。