【完】キミさえいれば、なにもいらない。
そう言われて初めて、彼女が彼方くんといつも一緒にいる理由が分かったような気がした。


そっか、彼女は彼方くんの幼なじみだったんだ。だから仲がいいんだ。


「なんか、一部では彼方があなたのことを好きだって噂が流れてるみたいだけど、あんなの本気にしないでね。彼方って気まぐれだから、たまたま今はあなたにちょっと興味があるだけで、すぐに飽きるから」


鈴森さんは腕を組みながら、私の顔をまじまじと見つめてくる。


「彼方が本気で誰かを好きになるなんて、ありえないもん。そんなの今まで一度もなかった。だから、期待しても無駄だよ。それだけあなたに忠告しておきたくて」


「い、いや……別に私は、期待なんて……」


「じゃ、そういうことだから」


そして、そう言い終えたところで満足したのか、少しだけフッと笑うと、組んでいた腕をほどいて、背を向けた。


そのままスタスタとその場を去っていく鈴森さん。


私はそのうしろ姿を見つめながら、なんともいえない気持ちになる。

< 216 / 370 >

この作品をシェア

pagetop