【完】キミさえいれば、なにもいらない。
頷いたら、彼はクスッと笑うと、再び私の顔をじっと覗き込んでくる。


「いや、美空はただの幼なじみだから、そういう関係じゃないし。それより俺は、好きな子と一緒に行きたいんだけど……」


その瞬間、そっと彼方くんの手が私の腕に触れて、思わずドキッとする。


どうしてそういうことをサラッと言えてしまうのかな。


そして、そのたびに動揺してしまっている自分は一体何なんだろう。


夏祭り、かぁ……。


もちろん、私だって行きたいとは思うし、彼方くんに誘われて、正直悪い気はしない。


だけど、二人きりで行くなんて、まるでデートみたいだし、付き合っているわけでもないのに、おかしいよね。


それになんだか、この前鈴森さんに言われた言葉がずっと胸の奥にひっかかってて。


『彼方は誰にも本気にならないよ』


『すぐに飽きるから』


彼女の言うように、彼方くんはただの気まぐれで私に構っているだけなのかもしれないし、噂の通り実際はチャラ男なのかもしれないし……なんて。どこかでまだ、彼の気持ちを信じ切れていない自分がいて。


そう考えたら、やっぱり「一緒に行く」なんて言えなかった。


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