【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「ご、ごめん。私、急いでるからっ……」


こんなの、感じ悪いって、あからさまだって自分でもわかってるけど。他にどうしていいかわからない。


「え、雪菜?」


驚いたような声をあげる彼方くんを無視するように、靴を履き替える私。


すると、そこで彼が私の腕をパッと掴んだ。


「ちょっと待って」


その瞬間、ドキッと跳ねる心臓。


その場に何ともいえない重々しい空気が流れる中、彼方くんが数秒間をおいてから口を開く。


「……あのさ、もしかして、俺のこと避けてる?」


そう聞かれて、ついに問ただされてしまったと思い、ビクッと体が跳ねた。


そうだよね。こんな不自然な態度ばかり取ってて、彼がそれに気づかないわけがないよね。


「俺、なんかした?」


いつになく真剣な声で問いかけてくる彼。


突き刺さるような視線が痛い。


だけど、本当のことを言えるかって言ったら、言えるわけがない。


そのまま何も返せず黙り込む私。


「何があったんだよ。なぁ。頼むから答えて」


懇願するように言われて、胸がズキズキと痛む。


ねぇ、どうしたらいいんだろう。


本当のことを言うべき……?


彼の本音を確かめたほうがスッキリするの?


だけど、それでもし彼が、この前の言葉が全部本心だって認めたら……。



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