【完】キミさえいれば、なにもいらない。
昨日一緒にまわろうと誘われて断ったことはさすがに言えなくて、適当にごまかしてしまった。


だけど、璃子はやっぱりそこは鋭くて。


「そうなのー?彼方くん誘ってこなかったの?意外~。なんか、最近一緒にいるの見ないんだけど、大丈夫?もしかして、彼と何かあった?」


勘のいい彼女の問いかけに一瞬ドキッとしてしまったけれど、何があったのかはやっぱり言えなかった。


「な、なにもないよっ……」


「ほんとに~?」


「うん」


璃子には結局、あの時彼方くんの話を聞いてしまったことや、その後彼を避けてしまっていることは話していない。


こういうことをなかなか打ち明けることができないのが私の悪いところなんだろうけど、文化祭で盛り上がっている最中だというのもあったし、なんとなく璃子に余計な心配をかけたくなくて。


それに、思った以上にショックだったせいか、今はまだ誰かに話すような気にはなれなかった。


思い出すと辛くなるから、できるだけ考えないようにしたいし、少しでも忘れていたいと思ってしまう。


するとそこで、何か思いついたように時計に目をやった璃子。


「あ、そういえば、もうすぐ遥先輩たちのバンドの出演時間じゃない?」


「えっ」


言われて文化祭のプログラムの冊子を確認したら、確かにお兄ちゃんたちのバンドのステージ発表まであと10分というところだった。


「雪菜は見に行かないの?今年も先輩張り切ってるんでしょ?それにほら、遠矢先輩も出るみたいだし」


そう言われて、苦笑いを浮かべる私。



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