冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「スヴェン。今、少しいい?」

 昼過ぎ、この時間帯にライラが自分を尋ねるのは珍しい。なにかあったのか身構えるが、ライラの雰囲気からしてそういう事態ではないのが窺えた。

「ああ」

 中に入るのを許可すると、彼女に付き添っていたマーシャも現れる。今日のライラの格好は黒味がかった赤のワンピースだった。

 生地が少し分厚めで胸元とスカート部分の裾は白い。髪はマーシャの手により今日も右耳下で緩くひとつにまとめられている。

「今日、午後の時間は空いてるって聞いて……。よかったらお茶しない?」

 まさかの提案にスヴェンは目をぱちくりとさせる。そして、おずおずと説明するライラの後ろでマーシャはお茶の器具をてきぱきとセットしていく。

 こちらはまだ返事をしていないのにだ。

「いいじゃないですか。奥様がお淹れになるんです、少し休まれては」

 心の中を読んだのか、スヴェンの方を見ずにマーシャは手を動かす。そして準備が整い、ふたりにそれぞれ目を向けた。

「スヴェンさまがおりますし、私は席をはずしますね。また片付けに参りますから」

「ありがとう、マーシャ」

「かまいませんよ。では失礼いたします」

 丁寧に頭を下げ、マーシャは部屋を去っていった。見送ったライラはスヴェンに向き直る。

「頑張って淹れるから、飲んでくれる?」

 緊張した面持ちのライラにスヴェンは軽く息を吐いた。

「断るって選択肢はあるのか?」

「で、できればない方向で」

「なら、いちいち聞くな。するなら早くしろ」

 ライラは顔をぱっと明るくさせ、お茶の支度に取りかかる。スヴェンは書類に意識を戻した。
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