幸せの種
氏名 小森千花 年齢 七歳
保護者名 父 母 小森美麗
ショートステイ希望理由
保護者出産のため
――ちーちゃん、お姉ちゃんになるのか。
保護者名に父親の名前はない。
そのまま出産するとなれば、またここへ戻って来るかも知れない。
前回、千花がちしま学園へ来たのは、一年前のこと。
千花の母親が実家を出てしまい、祖母が千花の面倒を見きれないから、とのことだった。
こういう事例を嫌というほど見ている陽平は、自分の予想が当たらないことを祈るしかない。
家族の問題には深入りできないし、児童養護施設のカウンセラーにそこまでの権限はなかった。
「髙橋さん、誰か新しい子が来るんですか?」
「以前にも来たことのある小一の女の子です。自分のことを『ちーちゃん』って呼んでいました」
向かいの席から、きらきらした目で問いかけられた。
今年採用された、藤島穂香(ふじしまほのか)先生だ。
やんちゃな子ども達に振り回され、悪戦苦闘しながらもやる気に満ちあふれた新人で、陽平は十年前の自分を見ているような気持ちで彼女に接していた。