幸せの種

大晦日は食堂にあるテレビで、おそばやみかんを食べながら、紅白歌合戦を見るのがちしま学園の年越しだった。

わたしと琉君は、あまりテレビを見ない。

どうしてなのか考えてみると、テレビにいい思い出がないせいだとわかった。


あの青いカーテンがかかる部屋にあったテレビしか、話し相手がいなかった。

どちらも一方的に話す、わたしとテレビ。

他にすることもないから、ただテレビを見てぼんやりするだけの毎日。

琉君も似たようなものだったと、以前言ってたっけ。


演歌が流れる時間は、みんなも退屈そうにみかんを食べたり、トイレに行ったりしている。

だけど、これからの三十分程度は、アイドルや人気お笑い芸人が出るとあって、テレビの周りにみんなが集まり始めている。


わたしと琉君は、そっと目配せした。

先に琉君がトイレへ行くふりをして食堂から出て、そのあとでわたしも抜けていく。

二人が向かった先は、学習室。

誰かに見られてもカモフラージュできるように、隠しておいた参考書とノートを机の上に広げた。

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