幸せの種

千花からの手紙を持って職員室へ戻った穂香は、同じく当直勤務だった高橋陽平カウンセラーが一人、コーヒを飲みながらPCに向かっているのを確認した。

今日は当直のため、コンタクトを外し、眼鏡をかけている。

切れ長の眼に細い黒縁のフレームがよく似合っていて、格好良い。

それなのに長年彼女がいないのは、きっとこの激務のせいだと穂香は思った。

以前の当直で、普段はバトルになった時の対策として、コンタクトを愛用していること、当直や長い勤務になりそうな時のために、職員室には常に眼鏡を置いていることなどを聞いていた。


彼は臨床心理士の資格を持つ職員で、心理アセスメントやカウンセリングといった仕事をしつつ、不安定になりがちな子ども達のケアをしている。

今年で十年目という中堅で、こいのぼりの保管場所から生意気盛りの高校生が幼少時どれだけ甘えん坊であったかということまで把握している。

時に大暴れする中高生をいとも簡単に行動観察室へ連行し、クールダウンさせることが可能な頼れるカウンセラーだ。


穂香から手渡された手紙を見た彼は、少し考えた後、赤ペンで文章を添削していた。

大事なのはそこじゃないでしょう、と穂香は思ったが、千花の学力が気がかりなのは彼女も同じだった。

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