昼休みが終わる前に。


「最近どう? 暑い日が続いてるけど、夏バテしてない?」

「えぇ、なんとか。先生はいかがですか?」

「私は見ての通り、元気よ。あっ、今朝息子から連絡があってね、今週の土曜日の午後に、こっちに帰ってくるって」


松下先生は声を弾ませながら言った。


先生は若い頃に離婚していて、まだ幼かった一人息子を女手ひとつで育てたらしい。その息子は東京の大学に進学し、卒業後はそのまま東京の会社に就職した。


名前は信広(のぶひろ)。年齢は私の四つ上の三十一歳。東京の小さな出版社で、校閲の仕事をしているらしい。


彼の話は時々先生から聞くけど、タイミングが合わず、まだ実際に会ったことはない。




しばらく当たり障りのない近況報告が続いた。


やがて話題に尽き、会話が途切れ、お互い無言になったところで、先生は「行きましょうか」と言った。私は黙ってうなずいた。



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