見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
夏祭り、そして.....
「8/22に花火大会があるんだけど、みんなで行かない?」

夜の暑さが鬱陶しさを増して、8月の終わりも徐々に近づいてきた頃、春乃がRINEのグループで、天文部全員で花火大会に行くという提案をした。

「いいな!行こうぜ!」

慎一が真っ先に反応する。慎一はこの前会った時も“暇すぎてヤバい”と言っていたので、それからしたらいいイベントなのだろう。と言っても、あいつは宿題にほとんど手をつけておらず、現実から目を背けているのだが果たして大丈夫だろうか。

新たに加わった一年生2人も行けるということで、少し後に反応していた。しかし、恵理は家族と用事があって行けないと言っていたので、全員で行けそうにはないのが残念だ。

「俺も大丈夫、どこに集合するんだ?」

花火大会の会場は、平塚市で行われるそうで、駅からバスに乗るという。

「そうだね、平塚駅に16:30くらいでいいかな?」

花火が打ち上げられるのは19時ということだが、その時間を目指して行ってしまうと思うように花火が見れないだろうし、それくらいがちょうどいいのだろう。

「じゃあそういうことでお願いします!」

みんな了解!やOK!というスタンプを押して、それに反応する。俺はスタンプがあまり好きではないのでとりあえず静観することにした。

(花火か....星とかも同時に見れたりするのかな)

那須高原から帰ってきてからというものの、これまで見てこなかった分の反動なのか、無意識に空を見上げるようになっていた。とはいえ街中の光で裸眼ではあまり見えなかったので、見るたびに少し落ち込んでいた。

花火というものも本当に久しぶりで、小学校の時にもあまり行かなかったため鮮明な記憶は残っていない。

だからこそ、年甲斐もなくワクワク感を募らせつつ、床につくのであった。















平塚駅からバスに乗り約10分、俺たちは海にほど近い花火大会の会場に来ていた。会場には17時にはたどり着くことができ、まだ客もまばらであった。帰りとかバスは激混みで時間かかるんだろうなと思いながら、辛い帰り道を想像していた。

やはり、なんとしても前の方を確保したいという人々が陣を構えていたが、かなり見やすい場所を確保することができた。

「私、花火って初めて見るんですよ!」

「え、そうなのか。瀬奈はこういうの結構行っていそうなイメージだったんだけどな」

瀬奈は友達とこういうイベントに足を運びそうな印象が先行していたが、意外にも初めてだと言う。

「何回か行こうとしてたことはあるんですけど、雨で中止になったりして行けなかったんです」

たしかに、花火は天候にされやすく、その分中止になることも多いだろうから、なるほど納得だ。

「そういうことか。とは言っても俺もかなり久しぶりなんだけどな」

そうやって瀬奈と談義を交わしていたら、右横にいた春乃からシャツを引っ張られた。

無言の威圧、とはこのことなのだろうか。春乃は俺のことを睨みつける。

「え、どうした?」

俺はなぜ睨まれているのか分からず、首をかしげる。

「なんでもないですよ〜だ!」

明らかに拗ねている表情をしながら、顔を背けてしまった。

(なんだよ...ほんとよくわからないな...)

頭は混乱するばかりで思わず小さくため息をついてしまった。

「涼磨にはこの気持ちはずっとわからないんだろうなぁ」

遠い目でそう告げる春乃をなるべく見ないようにしながら、俺は花火に集中することにした。



花火は、約三千発が打ち上げられるということで、花火大会の中でも大規模なものであった。

様々な種類の花火が打ち上げられ、飽きることはもちろんなく、普段見れないような花火を見ることもでき、とても楽しい時間だった。

あいにく、星は見ることは叶わなかったが、綺麗な月を花火とともに楽しむことができた。

珍しいタイプの花火も良いが、ただただ大きな花火も圧巻だった。花火は玉の大きさが大きければ大きいほど大きな花火になるそうだから、一体どれほどの大きさなのだろうかと想像してしまう。

時間にして僅か1時間、されど1時間。友人達と初めて行く花火は、あっという間に幕を閉じた。


「あ、そうだ!来週夏祭りがあるんだけど、みんなで行かない?今回は恵理がいなかったからみんなでさ!」

花火の余韻に浸っていた俺はふと現実に帰ったようにその声に反応した。

「お、いいな!そうしようぜ!」

慎一は夏休みの宿題を終わらせることができるのか心配だ。

かくして俺たちは夏休み最後の日、8月31日の夏祭りに行くことになったのだった。





〜平田太志side〜


僕が天文部に入った理由は、ただ一つ、瀬奈が天文部に入ると言ったからだ。幼い頃からずっと一緒だった俺たちは、高校に入っても離れる選択肢は頭になかった。特に高校でやりたい部活はなかったし、なんの迷いもなく入部届けを出した。

花火大会だって瀬奈が行くというからそれに乗っかっただけだった。だからこそ、目の前の光景は心につっかえを残した。

越知先輩が瀬奈のことを下の名前で呼んでいた事実を気にしたつもりはなかった。だけれども何か引っかかる。流石に、越知先輩の前で言うことはなかったが、自分が気づかぬうちにいつの間にか口が開いていた。

「いつの間に越知先輩と仲良くなってたんだ」

「え、うん。この前バッタリ映画館で会ってね、一緒に映画を見てきたんだ」

僕からするとそれはデートなのでは?と思ってしまったが、口が自然に開くのを止めて、違う言葉を紡ぐ。

「そうなんだ。楽しかった?」

「映画も面白かったし、映画のこと色々話せて楽しかったよ!」

そういう無邪気な態度が、僕の心を小さく抉る。

(なんだろうな、この気持ち。嫉妬.....って言うのかな)

僕は嫉妬してしまったのだ。ずっと一緒にいるのが当たり前だったから、俺の知らないところでそうやって仲良くしているのをどうしても受け入れることができなかったんだ。

「そっか。よかったね」

(でも何か言ったところで何も感じないんだろうな...)

それが瀬奈の美点でもあるのだけど。

僕は、これ以上は言っても意味がないと悟って、そんな感情は心の内に無理やり仕舞い込むことにしたのであった。







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