大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
確かに私は麻の衣を着ている。

このふた月程で絹の衣も何枚か縫い上げる事は出来たが、この暑い盛りに絹を汗で汚してしまうのは勿体なかったのだ。

蚕を育て、繭から糸を取り、糸を紡いで、機を織る。

それを染めて、縫って、ようやく衣になる。

数々の苦労を知っているからこそ、秋も深まり、涼しくなるまでは、袖を通すのは控えているのだ。

大王から贈ってもらった大切な絹。

大切に使いたい。



「なぜ贈った絹を着ない?
まだ仕立て上がらないのか?」

そう問う大王に、

「大王に贈っていただいた大切な絹です。
汗で汚したくはないので、少し涼しくなるまで
待っています。」

私が答えると、

「そんな事を気にしなくてもいいのに。
だが、アヤが俺からの贈り物を大切に思って
くれるのは嬉しい。
アヤの好きにするといい。」

と、大王も理解してくれた。



なのに、なぜ、あのような見も知らぬ媛に悪し様(あしざま)に言われなければならないのか。

私が豪族の媛ではなく、ただの里娘だから?

好きでここにいるわけでもないのに。


お母さん…

早く帰りたい…

ハヤ、今、どうしてる?


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