大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
「ハル?
ハルがどうかした?」

ハルとは、ハヤのお兄さんの名。

私より三つ年上の19歳。

来月、隣の茅(かや)の里長の娘を嫁に取る事が決まっている。

「アヤが欲しいって。
アヤが綺麗になったから、
アヤを娶(めと)りたいって、言い出した。」

ハヤの顔が悔しそうに歪む。

驚いた私は、ハヤを見つめる。

「だって、私はハヤと夫婦になるんでしょ?
子供の頃から、そう言われて育ったんだよ?」

「うん。
俺もずっとアヤと一緒になると思って
生きてきたし、アヤ以外、考えた事もない。」

ハヤの目は真剣で、まっすぐに見られるとなんだか気恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまう。

「里長(さとおさ)はなんて?」

私は、目を伏せたまま尋ねる。

「アヤ次第だって。
アヤが兄さんを選ぶなら、俺に茅の里の娘を
娶(めと)れって。
この里にとって大切なのは、機織りのアヤが
留まる事だから、アヤがこの里にいるなら、
娶(めあわ)せるのは、俺でも兄さんでも、
どっちでも構わないって。」

と、ハヤは、悔しそうに唇を噛みしめた。
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