目を閉じたら、別れてください。

「ドレスの試着の予約の確認電話と思う」
履歴は消してしまったけど、電話番号は全部式場からだった。

「え、あの、それって」
「今日はよっしーさんと会う約束してるから、キャンセルしただけ」
「ええええ。遊んでる既婚者の吉田さん!?」

泰城ちゃんの顔が、明らかにサッと変わる。
私もちゃんとどんな人かわかってるので、飲み屋とかじゃなくて普通のカフェでお茶をするだけだ。

「結婚する前に、彼の身辺整理するだけ。どうせ口は割らないだろうけど」
「何かあったんですか?」

心配げに尋ねられたので、私は微笑む。
詮索はしない。しなくても元カノは分かっているし、きれいに分かれたことも知っている。
知りたいのはそこではない。

「何も。ただ自分の気持ちを整理したいだけ」
「でも……なんか顔色悪いですよね?」

そういわれて、朝から怠かった理由が分かった。
そうか、私、体調を崩しているんだ。

残念ながら、まともな判断ができそうにないので、よっしーとの待ち合わせはキャンセルするしかなかった。


家に帰って体温計で測ると38度も熱があった。
スーツのままベッドに倒れて、メールをしたためた。
『……すいません。仕事を早退してしまいまして、また今度でいいですか?』

『今、煙草休憩なんだけど、電話していい?』


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