目を閉じたら、別れてください。

「いや、お前みたいな面倒な奴は俺しかいねえ。俺にしとけ」
「私はちゃんと別れに来たの」
「俺は結婚する予定」

この人、私の知っている神山進歩ではない。
ちょっと顔が良くて金持ちだからって、我儘で傲慢で一方的で口が悪い。

「あんたは、私じゃなくてもより取り見取りなのに」
「……本気で抵抗しないなら、もう黙れよ」

どうせ、恋愛が面倒なら俺でいいでしょ、と彼は笑った。
その笑顔は悪魔ではなく大魔王が降臨されている。

彼の執着の底に、私への愛情が本当にあるのか疑わしい。
少しも心が温かくなったりしない。

のに、寝室までお姫様抱っこで連れていかれながら、テーブルに置かれた彼の携帯が振動しているのが見えた。

電話に出ないまま、早急に私の上に覆いかぶさる彼は、知的でも寡黙でもなく。

まさに狼のような獣でした。
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