なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 驚く朱熹に、「暇だからね」と何でもないことのように陽蓮は言った。


 そして陽蓮は、何のことわりもなく再び演奏を始めた。


 さっきまで朱熹と話していたのに、まるでここに朱熹はいないかのように、あっという間に自分の世界に入ってしまう。


(浮世離れしているというか……一言で表すなら、自由人ね)


 朱熹は呆気に取られながらも、いい意味で自然体な彼に好印象を抱いた。


 それはときめきや恋といった甘酸っぱい感情ではなく、純粋な好奇心に近かった。


 陽蓮の音色は、壮大でいて繊細で、この世のものとは思えないほど美しい演奏だった。


朱熹は森にいる虫や鳥のように黙って彼の演奏に耳を傾けていた。
 

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