桃恋
地獄編〜
「覚悟は、いいか?」
おーー!!
なぜか指揮を執る1本ツノの鬼…
そしてなぜか犬達も、それに従っていた。
「なー、おまえの名前教えてくれよ?」
「俺か?俺は、黒くてデカいからくろべえって呼ばれてるぞ」
(なるほど確かに黒くてでかい…)
「お前は、なんて言うんだ?まさか桃太郎が本名じゃねえだろ?」
くろべえは、ニヤニヤしながら聞いてきた。
「本名だよ…桃から生まれたから桃太郎…」
俺は、なんだか恥ずかしくなり小声で答えると、くろべえのやつ腹を抱えて笑い出しやがった。
「ぎゃはははは」
「なっ…お前だって黒いからくろべえじゃねーか。俺の事わらえるのかよ?」
俺に指摘されても笑い続けるくろべえ。
やっと笑うのをやめたと思ったら、真顔でこんなことを言い出しやがった。
「俺は、見た目でついたあだ名だ。だけどお前の場合、クックック…桃から生まれたからって安直すぎるだろ。あははは」
「たっく…笑うか喋るかどっちかにしろよ。てか笑うな」
「桃太郎様報告があります」
(ん?報告?なんだろう?)
「どうした?」
「はい…猿とキジが待ちくたびれて地獄の穴に入っていってしまいました」
「えっ?止めなかったの?」
「いえ、止めましたよ。一応」
(なんで一応なんだ?)
「止めましたけど…あいつなんて居なくても何とかなるわ。とキジが、桃太郎いても足でまといになるキーと猿が言って行ってしまいましたよ?私は、あんな奴ら居なくても桃太郎様がいれば何とかなると思っておりますので」
笑顔で答える犬。とても忠犬で良い奴なんだが、少しズレているところがあって困る…
「なんか哀れだな」
そう言ってくろべえのやつが俺の肩に手を置いてきた。
「さて、優柔不断な桃太郎様には、任せてられません。くろべえ行きますよ」
「おう、行くか」
(あれ?なんか今バカにしてなかったか?って俺を置いていくなー)
桃太郎も犬達を追いかけて、穴に飛び込んだ。
穴の中は、暗くジメジメしていた。
しばらく穴を落ち続けると、明るい光が見えてきた。
「あそこが、三途の川だ。決して餓鬼に同情するなよ」
「くろべえは、来たことあるのですか?」
「あー、まあ色々あってな」
「そうですか…あなたも色々苦労してきたんですね」
「まあな…」
(えっ?今ので何を悟ったの?犬やべー)
「桃太郎様、気を引き締めてくださいね」
「おう」
穴を抜けるとそこは、様々な花が咲く花畑だった。
「おー!すげーここが三途の川か」
はしゃぐ桃太郎を見てあきれる2人。
「桃太郎様、遊びに来たんじゃないんですよ…」
「お前を見てるとほんと心配になるわ…」
「悪い…」
「そうだった、誰かさんのせいで言うのを忘れるところだったが、ここの花を1つ摘んでいけ」
「おやー?くろべえくん意外と乙女チックな趣味がおありで?」
あおる桃太郎を無視してくろべえは、続けた。
「ここの花は、亡者にとっては、地獄行きか天国行きかを判定するチケットみたいなものだが生きてる者には、現世に帰るためのアイテムにもなるんだ」
「やけに詳しいんだな。鬼だからか?」
「まあそんなところだ」
納得した様子の桃太郎。
しかし犬だけは、やはりと言う顔をしていた。それに気づいたくろべえは、早く行くぞ。と促したのだった。
「やっと川が見えて来たな…」
何故か顔をこわばらせるくろべえ。
不思議に思い、目を凝らしてみると川の近くで子供が石を積んでいた。
そしてあと少しってところで、亡者に積み上げた石蹴り倒されていた。
走り出す桃太郎。
「やめろ。そいつらに関わるな」
止めるくろべえを無視して、走る桃太郎。
「おい、犬。あのバカを早く止めろ」
犬は、主人を馬鹿呼ばわりされたことで少しムッとした顔をしたがすぐに走り出した。
「桃太郎様止まってください」
しかし犬がついた時には、桃太郎が倒れていた。
「貴様がやったのか?」
牙を向きだし喉を鳴らして犬は、少年に威嚇した。
「そうだよ。僕に同情するから悪いんだ」
「訳の分からぬ事をぬかしよって。食いちぎってやる」
そう言って飛びかかろうとする犬をくろべえは、止めた。
「何をするくろべえ」
怒り狂う犬にくろべえは、冷静に答えた。
「こいつを殺したら桃太郎は、めざめねーぞ」
「!!!なに?」
「おい、餓鬼。閻魔大王は、ウソが嫌いなんだよ。お前らが、こんな騙すような真似してると知ったらどうなるかな?」
くろべえの言葉を聞いた途端餓鬼は、震えだした。
「なっ…何を言う。そもそも閻魔様の耳に届くことなど…」
ニヤリ
「何がおかしい?」
「俺達閻魔大王に会いに行くんだよ」
「なんだと!?」
表情を曇らせる餓鬼、しかしすぐに表情を戻して聞いてきた。
「ところでお前達は、どうやって地獄に行くつもりだ?」
「そうだな。その男を目覚めさせてくれたら教えても言いいぜ」
不敵に笑うくろべえ。
(この男何を企んでいるんだ)
そう思い少し考える餓鬼。
しかし地獄の鬼の中でも、最低ランクの餓鬼の頭では、くろべえの考えを読む事は、できなかった。
「わかった」
そう言うと餓鬼は、桃太郎から抜き取った魂を桃太郎に戻した。
「んー。よく寝たー。ってあれ?みんな何してるんだ?」
「…えっ?お前寝てたの?」
「桃太郎様…(なんでこのバカに使えてるんだっけ?)」
「おい犬…お前何かひどいこと考えただろ?」
「(ギクッ)めっ…めそうもございませんん」
「そうか?ならいいんだけどさ。なんでこのバカに仕えてるんだろ?てきな事を考えてたらやだなーと思ってさ」
「はは。まさか。」
(ほんとこの人勘だけは、いいんだよな)
「おい。お前ら俺を無視するな」
(あっ…こいつのこと忘れてた…)
(あっ…忘れてた…)
「あれ?君なんで石積んでたの?」
「…桃太郎…頼むから少し黙っててくれないか…」
諦めた口調で話すくろべえ。
「ん?わかった」
「餓鬼…お前の事を閻魔大王に伝えないでやるよ」
「??…何?」
「その代わり、頼みがある?」
「頼みだと?」
「あー。三途の川を渡る船を出してほしい」
「まさか…まさかお前地獄に行く方法ってそれか?騙したな…」
怒り出す餓鬼。
しかしくろべえは、冷静に答えた。
「おや?嘘とは、人聞き悪いね。確かに教えたぞ?」
「くっ…誰が乗せるものか。」
「しかしそう言うわけには、いかないんだな」
「どう言う事だ?」
「これなーんだ?」
そう言うとくろべえは、餓鬼が積んでた石を餓鬼に見せた。
「なっなぜお前がそれを?」
「お前が、桃太郎を起こしてる隙にちょっとな」
「くっ…わかった…乗せていってやる」
そう言って餓鬼は、船の用意をしに行った。
「どうして餓鬼は、船をだしてくれるつもりになったんだ?」
不思議そうに聞く桃太郎。
「あー。それな?餓鬼にとって、石は、通行手形みたいなものんだ」
「おーい、船の用意出来たぞ」
そして3人は、地獄に向かって進むのであった。