届かないことが、これほど苦しいものなんて。
君との話

恋人未満

『こーうーちゃーん!』
「わかった、わかったから叫ぶな!」
毎日繰り広げられる光景
隣の家のこうちゃんを呼びに行くのが私の日課

小さい頃からそうだった
朝、こうちゃんの家へ行き
「こうちゃーん」
と呼びに行く。
私もこうちゃんもお互いの家に出入りできる
第二の家。という感じだろうか。
そんな、こうちゃんの家。
こうちゃんの家族も優しくて、これまた第二の家族という感じだ。
この町に越してきた時から母親同士が意気投合したらしく、今となっては家族ぐるみの付き合い。
『おばちゃーん!おはよー!』
「おはよう、麗那ちゃん。今日も元気ね」
『うん!こうちゃんは?』
「幸大?あら、そういえば起きてきてないわね」
『そういえばって、こうちゃん忘れられてやーんの!』
「忘れちゃってたわ」
あはは、と2人で笑い合う。
「忘れんなよぉ」
とこうちゃんの声が。
制服に着替えてはいるものの、寝ぼけた様子で椅子に座る。
『え?こうちゃん?遅れるよ?』
「…あ?」
そう腕時計を見るなり目を見開く。
「ちょ、早く言えよ!」
『え?!私のせい?!』
「いってくる!」
『いってきます!』
「いってらっしゃい〜!」
こうちゃんのお母さんに見送られながら私達は2人揃って学校へ駆け出した。
『こうちゃんっ、待って!』
「遅いぞ〜!」
『こうちゃんが早いんでしょ!』
流石バレー部エース、運動神経がいい。
その上顔もいい。学校ではモテモテだ。
「おデブれなちゃーん早くおいで〜」
と下まぶたを引っ張り舌を出す。
『…こんっの!うるさーい!』
ギャハハと笑い逃げるこうちゃん。
そう笑う顔はやっぱり爽やかでかっこいい。
幼馴染になんてこと思ってるんだ私…!
かっこいい、なんて嘘だ。
すぐ“おデブ”やら“バカ”やら言ってくる。
周りのこうちゃんファンは
「幸大くんってかっこいいよね!性格もいいしさぁ!」
「そうそう!この間先生に頼まれてノート運んでたら何も言わずに持ってくれたの!ほんとにかっこいいわぁ」
え、ノートを持ってくれた?そんな、聞き間違えかな?
だって私が運んでた時は
「やーい麗那、使いっぱしりか!どーせ寝てたんだろ!」
『違います〜!頼られてるんですから!』
「ぶっ…そんな訳ないだろ!ポジティブなだぁ」
『うるさいなぁ!重いから持って!』
「やだねー」
必ずバカにしてくる。
持ってくれた試しなんてないし、いらぬ口まで叩いては去っていく。
もう慣れたからいいけど最初の頃はものすごくムカついた。
一度本人に
『他の女の子には優しいくせに!』
そう言った。
「まぁ、お前は特別だからな!」
…特別?
そんな特別あってたまるか、なんてその時は思っていた。
けど、その“特別”という言葉が妙に心に残る。
嬉しかった。幼馴染であるというこの“特別”の特権。
こうしていらぬ口を叩かれるけど、なんだかんだ、しょっちゅう私のクラスに来たり、声を掛けてくれたり、優しさが垣間見える。
私のこと、大切なんじゃん。
なんて少し浮かれた気持ちになる。
私もこうちゃんのことが大切だから。
そう、大切。
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