亘さんは世渡り上手


俺の前の席に座って、じっと見つめてくる亘さん。


俺は、亘さんのことをうまく見られずに目を逸らしてしまう。


やっと亘さんと会えた。たった一週間なのに、こんなにも待ち遠しかったことはない。


ない、んだけど。


風邪の日、ちょっとした気持ちの変化に気付いてしまった。俺の、亘さんに対する……友情のような、そうでないような、迷いが見えてしまったから。


だからちょっと、気まずい。



「そ、そう? 例えばどこ?」



限りなく視線を紙に合わせる。



「優しいところと、素敵な笑顔、です」



……それ、亘さんにとっては前の俺と全部一緒じゃん。だって俺のこと、ずっとそう思ってたんだろ?


亘さんからしたら何も変わってないって言いたいのかよ。


いくら視線を逸らしても、亘さんが俺を見ているのがわかってしまう。


心臓が、うるさい。




「和泉くん、花火大会わたしと一緒に行きましょう」




亘さんのその一言で、周りの声がピタリとやんだ。


目を見開いて、食い入るように谷口が勢いよくイスから立ち上がる。大きな音か響いて、他の利用者までこっちを見ていた。



「え!? ちょっと亘さん、私を騙してただけなんじゃないの!?」


「た、谷口。落ち着いて、図書館だから」



八木か谷口をなだめる。


谷口は、息を荒くしながら座り直した。

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