菓子先輩のおいしいレシピ
 学校から少し歩いた先にある、通称ピーチ通りの一角にそのお店はあった。桃園高校の近くだからピーチ通り。本当は桃園ショッピングセンターと言うらしいけど、ショッピングセンターというより商店街だし、うちの生徒はみんな通称で呼んでいる。

 かわいい雑貨屋さんや、おしゃれなカフェが立ち並んでいて、放課後の人気スポットだ。昨日までは、私には縁のないところだと思っていたのになあ。

「こむぎちゃん、もしかして、ピーチ通りに来るの初めて?」

 そわそわと辺りを見回している私を見て、菓子先輩が尋ねた。

「は、はい……。ずっと行ってみたかったんですけど、一人で行くのもむなしくて……」

「じゃあ今日はいっぱい堪能しましょ! まだ時間も早いし、入りたいお店があったら言ってね」

「じゃあ、そこの雑貨屋さん……」

 ガラス張りのウインドウにアンティーク調のアクセサリーや小物がディスプレイされていて、とても素敵だった。

「私もこういう雰囲気のお店大好き! こむぎちゃんとは趣味が合うわぁ」

 そのお店では、菓子先輩とおそろいでシュシュを買った。私の髪はボブだけど、高校では髪を伸ばすのが目標。菓子先輩は、「後輩とおそろいのものを買うの、夢だったのよね~」とご機嫌だった。


 文房具屋さんや本屋さんをひやかしたあと、目的地に向かった。角砂糖みたいなこぢんまりとしたそのお店は、外に出ている看板がなかったら見逃してしまいそうな控えめな佇まいで、装飾と言ったらドアベルと黒板に書かれたメニューくらいなのが素朴で好感が持てた。

「かわいい雰囲気のお店ですね。えーっと名前は、ぺいる・ぐりーん……? レストラン? カフェかな」

 黒板に書かれたメニューを見て菓子先輩にたずねる。軽食やスイーツが多かった。

「pale‐green(ペール・グリーン)ね。う~ん、どちらかというとカフェだけど、ディナーはしっかりしたごはんも出すし、どれもおいしいのよ」

 こんにちは、と声をかけながら菓子先輩が中に入る。私はまだ治っていない人見知りが発症してしまって、借りてきた猫のように菓子先輩の背中に隠れていた。
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