菓子先輩のおいしいレシピ
* * *

「それで、御厨さんは彼氏さんの前でちゃんとごはんが食べられたのかしら?」

 数日後の調理室で、菓子先輩が料理をしながら私に尋ねる。初回がむずかしいメニューだったため、今日は私のレベルに合わせてもらってクッキーだ。
 私が簡単なドロップクッキーでも苦戦しているのをよそに菓子先輩は、チェリーを乗せた絞り出しクッキー、ココナッツの入ったココアクッキー、アイシングを施したレモンクッキーなどを次々に完成させていた。菓子先輩の今日のクッキーだけで、缶に入った詰め合わせが作れるのでは……。

「この前食べられなかった駅前のファストフード店にリベンジしたらしいです。みくりちゃんは因縁のテリヤキチキンセットを頼んで、彼も同じものを注文したって。」

「食べものの好みが合うって素敵なことよね。恋人同士ならなおさら」

「そうですよね。それでみくりちゃんも安心して、いつも通りハンバーガーを食べられたらしいんです。でも――」

「でも?」

「油断していたら、口の周りにソースがべったりついていたそうです」

「あらまあ。それで彼氏さんは?」

「それがですね……」

 私はこの話を聞いたときのことを思い出し、顔が赤くなってしまった。

「そんなみくりちゃんを見て、可愛いな――って言ったんですって!」

 この話をした時のみくりちゃんの顔が忘れられない。ほほを桜色に染めて、本当に幸せそうに微笑んでいた。透明なまなざしは、きっと恋をしているから。今までで一番、みくりちゃんが綺麗に見えた。

 私は甘い台詞を自分で言いながら興奮していたのに、菓子先輩はやっぱりね、といった顔だ。
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