甘い恋は復讐の後で
 世間知らずも大概にして欲しい。
 昨日、あんな目にあったにも関わらずこんなところに来て、しかもこんな格好で………。

 哲哉だって、まぁ男同士一緒につるむ分にはいいが、女関係は派手そうだ。
 そんな奴にまで目をつけられて……。

 俺には関係ないこと……そう頭に浮かぶのだが………。

 いや、違う。

 マスターの顔を立てなきゃいけない理由を増やしてまで助けてやった俺は文句を言う権利があるはずだ。

「貸せ。」

 さきほど突き出された袋の中身を開けると女に上から被せた。

 綺麗にアイロンされたそれはボタンが止められていて頭の上で止まる。
 その姿があまりに滑稽でハハッと軽い笑いがこぼれた。

「ちょ、笑ってないでどうにかしてください。これ。」

 不平を訴えられてクククッと笑いを噛み殺しながらボタンを数個外すとガバッと下にさげてやった。
 ぞんざいな扱いに帽子は横にズレ、大きなシャツも相まって無様な姿がまた笑いを誘う。

「フッ。こっちのが似合ってるぞ。」

 ククッと笑っていると不満顔をした女は髪を整え、帽子を真っ直ぐに被り直した。

「ビリヤードやるんならボタンも止めるんだな。」

 帽子を上から押さえつけ目深に被らせた。

 ヨシ。これでいい。

 小学生か中学生の野郎にしか見えない風貌に満足げに心の中で呟いた。






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