きっと夢で終わらない
それは私が一歩、線路に踏み出そうとした時だった。
ドンっ、と何者かに、背中を押された。

自分の中のタイミングよりも早く線路が真下に見えた。

願ったり叶ったりの状態だったにもかかわらず、右側遠くに車体が見えて一気に恐怖が私を襲った。


どうしてだろう。
ついほんの少し前までは何の怖さも未練も感じていなかったのに。
その瞬間私は思った。



——死にたくない。



でも、身体は傾いて、重力に逆らえず、線路に落ちて行く。
スローモーションのように背景が流れて、電車が近づいて来て、人間の叫び声が耳を劈き——


——「杏那!」
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