きっと夢で終わらない
「もしかして……葛西先生と過去に何かあった、とか?」


鋭いところをついてくる。
珍しい、今までここまで突っ込んで聞いてくるってことはなかったのに。
不自然にも言葉が詰まってしまって、きいちゃんはあからさまにしまったという顔をした。


「なあんてね!これはちゃんと渡しておきますね。初めてのおつかい、謹んでお受けさせていただきます」


ポーカーフェイスが得意じゃないきいちゃんは、冗談っぽく敬礼してみせた。
私も笑顔を貼り付ける。


「ありがとう」

「とんでもないです、って……っわ! 先輩急ぎましょう! やばい、あと二分!」



携帯で時刻を確認したきいちゃんが身を翻して走るので、私も慌ててその後を追う。
玄関から入って上履きに履き替えるのは時間がないから、とりあえず非常階段から上がることにする。
きいちゃんは一階だけど、私は三階だ。しかも荷物も持っている。
先輩頑張れ!と余裕綽々で一階の非常口に消えたきいちゃんを見送って、三階まで駆け上がった。

身ひとつならまだしも、鞄は教科書でいっぱい、当然重い。
それでも階段を駆け上がり、乳酸菌が溜まって行く足をなんとか動かし、重たい非常口ドアを両手で引いた。
しんとした廊下に、ギィっと蝶番の擦れる音が嫌に響いた。
向こうから階段を上がって来るスリッパの音が聞こえる。

私は息を整える間も無く、自分のB組の教室に滑り込んだ。
昨日のように、ドアの開音にみんながピンと空気を張り詰める。
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