きっと夢で終わらない
全く面識もなかったのに、どうして私がここにいることを知っているんだろうと不思議に思ったのも一瞬で。


「風邪引かなかった?」


弘海先輩は、昨日の出来事を一時の夢にしなかった。
弘海先輩は、多分頭のネジがどっか飛んでるけれど、他の人とはちょっと違う。
そんなことを思って、昨日の仕打ちも、ここに来た理由も、どうでもよくなった。

そのあと、どんな会話をしたかは覚えてないけれど、弘海先輩は早朝講座を終えてから、よく花壇に来るようになった。
ホームルームが始まるまでの十分。
毎朝十分、花壇にお水をやっている間弘海先輩が来て、他愛もない話をして、時には弘海先輩が花に水をあげて、そしてそれぞれの教室に戻る。
早朝講座が長引いて時々来ない日もあったけれど、交わす言葉が挨拶だけでも、弘海先輩は朝時間を作っては花壇にやってきた。


中学生と高校生の校舎は異なるので、偶然に会うことは稀だったけれど、時々廊下ですれ違ったり、図書館で会うこともあって、そういう時は弘海先輩の方から手を振って合図してくれた。
それは友達が一緒の時でも、一人の時でも変わらなかった。
そして私が弘海先輩を見つけると、必ず視線に気づいて、笑顔で応えてくれた。
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