きっと夢で終わらない

——「つぎは、春日。春日——」


しばらくして、学校最寄りの駅につくことを知らせるアナウンスが耳に入った。
弘海先輩もそれに反応した一瞬の隙に身体を押して、距離をとる。
どんな表情をしていたかなんて一切知らないけれど、私の身体は結構簡単に弘海先輩から解放された。
停車して、ドアが開くと弘海先輩の間をすり抜けて電車を降り、人の波に紛れるように階段を登って、逃げるように改札を出た。

少し通りに出たところで改札口を振り返ったが、追ってくる弘海先輩の姿は見えなかった。
でも手には、返し忘れた弘海先輩のハンカチ。
お礼は言うべきだっただろうか? と脳裏をよぎったが、すぐにそんな考えは消し去った。

だって、私の邪魔をしてきたのは弘海先輩だ。
ハンカチを押し付けてきたのも、全部弘海先輩が勝手にやったこと。

私には関係ない。
どこで降りようが、ハンカチがなくて困ろうが、私の知ったことではない。
むしろさっき邪魔したことを、謝ってほしいくらいだ。
思い出したらまたふつふつと怒りがこみ上げてきた。
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