ベストフレンド~本当の友達~
帰り道で佳織と美羽と別れ、友里と2人きりになる。

「楽しみだね、明日」

「うん」

修学旅行という非日常への期待感が高まっている。

「で、さっき何見てたの?」

「え? 何でもないってば」

「当ててあげようか? 憲一君でしょ?」

かっと、体温が上昇するのを感じた。

「やっぱりそうかー。ふふふ」

友里は笑みを浮かべる。

何か、悪いことを考えていそうだ。

「い、いや、友里が考えていそうなことは、ないからね」

「えー何それ? あーあ、無理にでも憲一君を修学旅行に行かせればよかったかな。それにしても、桜と憲一君かあ」

絶対勘違いしている。

私が野部君に抱いている感情は、憧れとか尊敬であって、恋心ではない。

まあ、そういう感情が発展することもあるけど。

って、私は何を考えているんだ。

それこそ、漫画じゃないんだから。

「ふふ、応援してるよ。じゃあね、桜」

友里は走り去って行く。

絶対勘違いされた。

どうすればいいんだろう。

友里は強引で突っ走るタイプだから、野部君に迷惑が掛からなければいいけど。




その日の太郎の散歩。

野部君に出くわしたけど、気まずい。

逃げてしまうのも悪いので、挨拶をした。

「こんばんは、野部君」

「こんばんは、桑野さん」

そのまま、一緒に歩く。

「残念だね。修学旅行、行けなくて」

沈黙は気まずいので、私は話を振った。

「うーん、そうだね。でも、海外は割と行ってるから、そこまで残念じゃないよ。みんなと行けないのは、もちろん残念だけど」

「海外? 旅行で?」

「いや、テニスの練習とか試合で」

「すごいね……」

そうか、日本だけでは世界の選手と戦えないし、海外の環境に慣れておく必要もあるのだろう。

「じゃあ、もしかして英語しゃべれるの?」

「うん、まあ、少しはね。実地で鍛えたから」

「すごい。さすがだね。憧れるなあ……」

さすがとしか言いようがない。

日本の英語教育で実用的な英語は身に付かないというけれど、実際のところどうなのだろう。

私が尊敬の眼差しで野部君を見ていると。

「……あんまり、神格化してほしくないんだけどね。僕だって悩むし、くじけそうになることも沢山あるんだ。それに、まだ大人じゃなくて子供なんだし」

「うん、そうだよね」

私は野部君のすごいところ、輝いているところだけを見ようとしていたのかもしれない。

申し訳ない気持ちが湧いてくる。

「桑野さんは夢とかあるの?」

「それが……何も」

野部君と自分を比べ、恥ずかしくなる。

「そっか、じゃあこれからだね」

そういう風に言ってもらえると、ありがたい。

「うん」

私の夢。

なんだろう。

ちゃんと、見つかるのかな。

今は何の形も成していないけれど、いつか形にしたい。

「友里とは仲良くやってる?」

「うん、毎日楽しいよ」

「良かったよ」

友里と言えば、あの勘違いの件がある。

友里が野部君に変なことをしたり、言ったりしなければいいのだけれど。

そのことについて、野部君に言おうかどうしようか迷う。

しかし、話題に出すのも恥ずかしいのでやめておいた。

「じゃあ、おやすみ桑野さん」

「おやすみ、野部君」

野部君は去って行った。

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