あの夏の日の花火

不本意なお世話係。

どうしてこうなったのだろう。

「トイレは隅っこがいいんだろうな。ここに一つと……洗面所にも置いておくか?」

大きなビニール袋から購入したばかりの猫用トイレをリビングの隅に置いている敏也を眺めながら、私は困惑しきりだ。

「おい、いつまでそんなところに突っ立っている気だ?」

ザラザラとプラスチックの四角いトイレに猫砂をし入れながら敏也が言う。

そんなことを言われても、まだどうしていいやらわからないんだもの。
私はすでに五分ほど玄関で靴も脱がずに突っ立っている。
や、だって。
知らない仲ではないとはいえ、一人暮らしの男の部屋。
そこにひょいひょい入っていける?
まして……。

「……あの、えっと、やっぱり、その」
「なに?」
 
微妙に面倒さげな声音にイラッとする。

「私、やっぱりどこかビジネスホテルにでも泊まるから」

苛立ちに背を押されるように早口に告げると、私は足下に置いたボストンバッグを両手に持った。
中には無事だったわずかな洋服と貴重品。

「ふぅん、コイツどうすんの?」

親指で指されたアキの姿にドキッとする。
アキは今、ここに来る前にペットショップで購入したゲージの中で眠っている。

「ひとまずペットホテルに……」

言い返した声が尻すぼみになっていく。
それはここに来る前に何度も言っては否定された提案だったから。
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