おやすみ、お嬢様
「タイミング合わないなあ。浮気してたりしたら許さないからね」

もちろん、本気で疑ってなんていないんだけど。

「あー、どうだったっけ。忘れました」

榛瑠が布団の中でモソモソ言ってる。何よそれ!冗談にならないんだから。あなたの場合、特に!

「もう、怒れちゃう!起きて!」

私はうつ伏せで丸まっていた榛瑠の布団を無理やり剥がした。が、

「ちょっと、なっ、わっ」

我ながらわけわかんない言葉を発して、もう一度布団をかける。というか、彼の上に投げた。

「また服着てない!ちゃんと着て寝てよ!」

「だってめんどくさい……」

榛瑠は一応起き上がって、ベットの上で布団をまとったまま座り込んだ。

そうなのだ。彼とつきあってこれも知ったんだけど、この人普段、服着て寝ないの!まったく何にも!面倒くさいって、わけわかんないし。

「べつに今さら恥ずかしがらなくてもいいと思うんですけど」

榛瑠が立てた膝に頭を乗せたまま、まだどこか眠そうに言う。

そういう問題じゃないし。というか、絶対慣れそうにない。慣れるには、彼はなんというか、えーと。

「もう、しらない。リビング行ってるから適当に起きてきてね。まったく、いつもと逆になっちゃった」

私はぶつぶつ言いながら彼に背を向けた。

「怒った?」

榛瑠が後ろから言った。しらない、と言って、私はドアに向かう。

「お嬢様」

私はとりあえず足を止めた。
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