おやすみ、お嬢様
一花がこうなったのはいつからだ?昔はここまでじゃなかった。自分がいない間に変わっていた。

彼女はいなかった9年のことをあまり聞かないし、それ以上に話さなかった。

もともと一花は榛瑠に対しては屈託がなくて隠し事も下手だ。

その彼女が話さない過去には、話したくない何かがあるのだろう。

そして、そのうちの幾分かはたぶん、俺のせいだ。

そう榛瑠は思いつつ、そのことについてわざわざ聞こうとも思わなかった。

聞いても仕方のないことはある。

「でも、好きだったのは夜ではなくて朝でしたけど」

うつむいている一花に榛瑠は言った。思った通り、彼女は顔をあげた。

「朝? 山の?」

「そう」

「そうなんだ。……ねえ、じゃあ一番きれいだった朝を話して」

「一番、ですか」

「うん、わからない?」

「わかるけど、一花が聞いてもあんまり楽しい話じゃないよ」

「何で? 嫌じゃないなら聞きたいんだけど」

大丈夫かな、と思いつつ榛瑠は話し出した。
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