先生を好きな理由は必要ですか?
〜数日後〜

いよいよ中間テストの日だ。
私はいつも通り国語は勉強しない。

授業は聞いていないけど
何となく出来そうな自信があった。
勿論、満点とは言わないけれど…。



「配るぞ〜。」

杉下先生がテスト用紙を配り始める。

テストの時は席は名前順になるので
私は真ん中辺りの席になる。
だから杉下先生とは
関わらずに済むとほっとしていた。


「テスト用紙は届いたな?
では、始め。」

〜20分経過〜

3分の2ほどサラサラと書き終えたが、
残りに苦戦している。

うーん…これは…

癖でペン回しをしていると
指が滑って ーーー

ーーーカチャン…

最悪だ。最悪だ!!
よりによって、
杉下先生が監督しているこの時に
落とすだなんて…!
どうしよう、足を伸ばして取ろうか…
いや、真横だから足を伸ばしていたら
目立ってしまう。

落ち着け私…
シャーペンは2本準備してある。
1本は見捨てよう。
よし、テスト再開しよう!

ズレたテスト用紙を元に戻した
その時だった。

–––コロコロ……ポトン…

消しゴムを落とした。絶体絶命。
もう問題を間違えることは許されない。
数学なら数字を消すだけなら
シャーペンの上の消しゴムを使えばいいが、
国語は難儀だ…
それに私はシャーペンの上の消しゴムは
使わない主義である。
私の現時点の手駒は、
消しゴム付きシャーペン1本のみだ。
これであと30分耐え抜くことが
出来るであろうか?

「これ、橋本さんの?」

私のシャーペンを拾った杉下先生が
私に話しかけてきた。
最悪なシチュエーションだ。
先生に話しかけられるのを避けたかったが
もう遅い。諦めよう。
私はこくりと頷くと、先生は
私の机の上にシャーペンを置いた。
そして机の上に消しゴムが無いことに
気が付いたのか、

「消しゴム、忘れたの?」

と問いかけてきた。

「えっ、いや…それは、その…」

消しゴムを落としたが、
どこにいってしまったのかわからず
言葉を詰まらせていると
先生は私の前から立ち去った。

やっぱり杉下嫌い…

そう思っていたら、

「これ、俺のだけど…使いなよ。
まだ問題終わってないでしょ。」

私のテスト用紙の上にそっと置かれた。

自分の消しゴムを取りに行ってくれたんだ。


「…どうも。」

杉下先生にお礼なんて言うことは無いと
思っていたが、
困っている時に助けてくれたので
一応お礼は言っておくことにした。



〜30分後〜

「はい、そこまで!
後ろから前に回して。」

自分の消しゴムを落としてから
わりと消しゴムを使った。
貸してくれてなければ今頃泣きべそを
かいていたかもしれない。

テスト用紙を回収し終えた先生が
教室を出ようとしたので
私は慌てて先生の元へ行った。

「杉下先生!」

「うん?」

「あの、これ…ありがとうございました。」

消しゴムを先生に返そうとすると、

「ああ、この後も
(テストあるから)必要でしょ?
そのまま持っていていいよ。あげる。」

「え?あ、いや、それは」

「この後のテストも頑張れよ。」

そう行って先生は教室を出て行った。

消しゴム……要らないのに。

「なーにー?
綾華、杉下先生とラブラブじゃーん?」

と、一部始終を見ていた杏奈が
面倒な絡みをしてきた。

「ラブラブなわけないでしょ!
誰があんな奴と。」



私は自分の消しゴムを探しながら
杉下先生がどうして優しくしてくれたのか
考えていた。
そして、はっと気付いた。

どうして私、杉下先生のこと考えてるの?!
大嫌いなのに!

やめたやめた。
生徒が困っていたら好き嫌い関わらず、
救いの手を出すのが先生だもの。
そう思って、納得した。

自分の消しゴムを見つけた私は、
明日杉下先生に消しゴムを返すことにした。


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