恋の残り香 香織Side
健司
「香澄、話をしないか？」


父親が静かにドア越しから声をかけてきた。


「顔を見たくないならこのままでいいから」


香澄はドアを開けた。


「ありがとう」


父親の痛々しい顔が胸を刺す。

香澄をベッドまで運ぶと、隣に腰を下ろした。


「香澄、健司君を解放してあげよう」


父親の言葉に香澄は無言で首を振った。


「香澄はあんな姿になった彼を見ていられるのか？
父さんは後悔してるんだよ。」


ぐっと手を握りしめながら話を続けた。


「彼は精一杯償いをしようと必死だった。
その真っ直ぐな気持ちを利用して、彼を不幸にしてまで娘の幸せを願ってしまった。
彼の気持ちなんて少しも考えてなかったんだ。
一番卑怯なやり方で彼を追い詰めてしまった。
事故の事だってそうだ。
結果的に彼の車が香澄にぶつかってしまったが、彼だって被害者だったのに…」


言われた言葉が胸をジクジクと刺す。

何も言い返せない自分が悔しい。

香澄はそれでも首を降り続けた。

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表紙・目次

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