恋の残り香 香織Side
あの日、香澄の向かい側から、居眠り運転の車が走ってきた。

左右にふらつき、スピードが急に上がったり下がったりしながら。

香澄の近くまで来た時、突然スピードが急速に上がった。

対向車線にいた車は車を停止させ、その車をやり過ごそうとしていた。

しかし車は対向車線に進入してきて目の前に迫ってくる。

車は壁に激突し、その弾みで停止していた車を左側から押しやる様に衝突した。

目を覚ました運転手がブレーキを踏んだ時には車は壁にぶつかる直前で、派手なブレーキ音が虚しく響いた。


「停車させていた車の運転手は香澄さんと同じ年齢の青年で、彼は骨折と鞭打ちで済みました」


警官から聞き、香澄はホッとした。


青年の車は右側に弾き飛ばされ、香澄を避けようとハンドルを切ったが避けようがなかった。


「目撃者もいたので間違いはないと思うんですが、話を聞くのが仕事なもんで…」


ベッドに横たわる香澄に、まだ若い警官が申し訳なさそうに告げた。


「私、覚えてないんです…
ボーッとしてたので、車にも気付いてなかったと思うし…」
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