花咲く雪に君思ふ
山の中にある家へと男を連れて行くと、男は家を見上げてから僕を見る。

「えーと、ここは?」

「あそこじゃろくに話も出来ないからね。家で話してもらった方が良い―」

「え?ちょ、俺そんなつもりじゃ!」

急に顔を赤らめてあわてふためく男に、僕は嫌な予感を感じながら向き合う。

「……そんなつもりって、どんなつもりさ?」

「俺には心に決めた女がいるし、そいつ以外に手を出す気もないから、その、娘さんがどんなつもりでここに連れてきたのかは知らないけど、俺―ぐはっ!!」

つい我慢できなくて殴っちゃったよ。

まぁいいか。丈夫そうだし。

「いきなり何すんだよ!全く、女ってのはもっとこう大人しいもんじゃないのか?……俺が出会う女、皆気が強いんだが」

「生憎と、僕は生まれた時からずうっっっっと男だよ!何か文句あんの?!」

「……………え?」

何その心底驚いた顔。

「え、えー?だって細いし、え?顔も女っぽいし……ええー?」

「え」って何回言えば気が済むんだよ。

「ああ、確かに女ではないか。固いし」

目を丸くしていたと思ったら、ペタペタと胸元を触ってきたこいつに悪寒が走り、僕はもう一発男を殴った。


「……悪かったって」

「……ふんっ」

その辺に死体の如く転がった男を引きずり、居間へと放り投げて転がしておいたら、ようやく目を覚ました。

「その……取り敢えず、話しても良いか?」

無言で先を促すと、男は話はじめた。

赤い着物の人形の話を。

「……で、その人形持ってから、あんたの恋人の様子が変わったって?」

「ああ。光希って言うんだけど。俺が話しかけても返事もしないし、店も手伝わない。おまけに一日中部屋にこもって人形遊びをしているらしいんだ。……しっかり者で働き者だった光希とは、まるで別人だ」

誠太郎(さっき聞いた)の話を聞いて、どう考えてもただの人形じゃないと確信する。

それに、人形を売った怪しい男。

まぁ、珍しいことじゃないんだよね。こういうの。

「だから、もしかしたらものの怪の仕業かもって」

「そうだね。寧ろそれ以外に理由なんかないよ」

「やっぱり?……こう言うのってどこに頼めば良いんだ?お寺さんか、陰陽師?……でも陰陽師って庶民の依頼受けてくれるかな?」

無理だろうね。

よっぽと京に被害が及ぶか、あるいは貴族に依頼されない限りは、動かない奴が多いから。

「金、そこまで持ってないし……うーん」

頭を抱え唸り始めた誠太郎。

「……その人形の所に案内しなよ」

「え?……でも、俺はとにかく話を聞いてもらいたかっただけで、お前に何とかしてもらおうと思った訳じゃないぞ!関係ない人間巻き込むわけにも―」

「僕に話した時点で、充分巻き込んでるよ。それに、陰陽師としては、その手の類いのモノを放っておくのも、後味が悪いし」

立ち上がり部屋を出ようとすると、誠太郎が慌てて声をかける。

「ちょ、ちょっと待てよ!陰陽師って―」

「因みに、名前は桃矢。どこにも属さない、変わり者の陰陽師って呼ばれてるよ。以上」

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