花咲く雪に君思ふ
らうたき人を、いづこへやりし
「ヒック……うぃ~……ああ、飲み過ぎだなこりゃあ~」

おぼつかない足取りで、暗い夜道を歩く男は、何時もは通らない道を通って家を目指した。

「けぇっても何もねぇからな~。あー、何か良いことねぇかね?……あん?」

ふらふら歩いていると、目の前にぼんやりと明かりが灯った。

不思議に思い目を細めると、光はみるみる大きくなる。

「うわっ、な、何でぇ?!」

あまりの眩しさに目を閉じると、すぐに光は収まった。

「……」

「お、お前さん、いってぇ誰だい?!」

男が目を開けると、目の前には美しい十二単を纏った丸っこい顔の女がいた。

艶やかな黒髪に、白塗りの顔。

「……えれぇ別嬪さんだなぁ」

ぼんやりと呟くと、女は小さく笑みを浮かべている。

「らうたき人を、いづこへやりし」

「……は?」

良く分からないが、和歌のような言葉を発すると、女は悲しげに目を伏せて、また光と共に消えた。

「……な、何なんでぇ?!気味がわりぃよ!!」

女が消えて酔いも覚めたのか、男は急に恐怖心に駆り立てられ、家へと走る。

あれは人間だったのだろうか?

それとも―。

「ひぃぃぃぃ!」

考えただけで恐ろしくなり、意味もなく両耳を塞ぎ、情けない声で叫びながら、男は走っていった。

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