妖精の涙【完】

デジャヴ



精魂祭から約1か月が経ち、すっかり外は冬の景色になった。

カーテンを開けると外は白銀の世界で、まだ朝早いというのにはしゃぐ子供たちの声が室内にまで届いてくる。

昨日の吹雪が嘘みたいだ。


あれからというものの、ティエナはオルドとは1度も会っていなかった。

確かにこれが普通ではあるんだろうけど、やっぱり心のもやもやは晴れてくれずずっとどんよりとしている。

今何をしていますか。

ちゃんと寝ていますか。

知りたいと思っても知る術はなく、リリアナにも気まずくて聞けない。

新国王が誕生してからずっとドタバタしていたから普段の生活が戻ったことは喜ぶべきだけど、このままでいいのか、と思ってしまう。


ぼーっとしてたら冬なんてあっという間だ。


「ケイディス様のお誕生日パーティーですか?」

「ええ。立ち位置はオルドお兄様の側近だけれど、第2王子には変わりないもの」


朝食を食べているとリリアナが教えてくれた。

ケイディスのお誕生日パーティーが2週間後に控えているらしい。


「もしあなたがあたしの侍女でなければ、年に数回拝見できる日の1つになっていたはずよ」


そう。

1年で王子たちの顔を普通の侍女や騎士が見ることができるのはオルド、ケイディス、リリアナの誕生日パーティーぐらいで、それ以外は全く接点を持てないらしい。

初めて聞いた話だった。


「国内の有力者を集めて盛大に開くから、お見合いパーティーみたいであたしは嫌いだわ」

「ああ…」


どうですうちの娘は、と連れてくるのか。


「それでは今回は大人数になりそうですね」


玉の輿確定なのだから。


「そうね…あー、欠席したい」

「リリアナ様に対するご挨拶もあるのでしょう?オルド様の顔を立てるためにも参加しなければなりませんよね」

「それよそれ。あたしにも縁談は来ているらしいのよね。あたしのこと、なんにも知らないくせに…」


そう。

ここまで話が来ることはないが彼女にも縁談の話が来ているのは事実で、匿名の手紙も増えてきた。

匿名の手紙は今までギーヴからのみで、匿名は捨てるようにお願いしようにも、直接会えるところにいるが万が一ギーヴからの手紙が混ざっていた場合は捨てられては困る。

幸い、ギーヴは同じ封筒を使用しているためリリアナに言われた特徴に見合うものは一応捨てる前に見せているもののまだ1度もその封筒は来ていない。

つまり、今のところ匿名の手紙は全て破棄していることになる。


「それに今回は新国王の即位でさらに人数が増えるわ。あたしも成人間近で周囲の目がギラギラしてるのはもう見なくてもわかる」


なかなか王族というのもたいへんである。


「政略結婚なさるんですか?」

「どうかしらね」


リリアナは肩をすくめた。


「あたしだって選択権はあるもの」


どことなく彼女が不機嫌な気がしてそれ以上は話を深堀するのはやめておいた。

とりあえず2週間後にパーティーがある。

それだけは覚えておこう。

< 104 / 174 >

この作品をシェア

pagetop