妖精の涙【完】

パーティー



そしてケイディスのパーティー当日。


「あなたと歩きたくないわね」

「ずいぶんと心外なこと言うじゃねえか。俺以上のハイスペック、そうそういねえだろ」


リリアナのエスコートは了承してくれたギーヴが務めることになり彼女は不服そうだった。

ずっと腕を組み不機嫌そうで、顔を覗き込んできた彼から顔を背けた。

そんな態度をされてもギーヴはニヤニヤとしていた。


「お兄様たちにはちゃんと許可取ってあるんだから堪忍するんだな」

「ええ、わかってるわ」


たしなめるように言われてもぶすっとした表情は変わらない。

そんな2人の様子を見ながらティエナはひやひやとしていた。


「…でも、ティエナがいるんだからあなたは必要ないじゃない」

「万が一のためだ。今日はいろんな人が城を出入りすんだし、ティエナの場合は誰もそばにいてやれねえだろ」


彼がエスコートし、察しの通りティエナも出席することになってしまったのには2つの理由がある。

1つはリリアナに嫌がらせをしてくる人がいないとも限らないから、それを未然に防ぐために護衛がやはり必要だったこと。

もう1つはティエナがまた攫われないようにすること。

自分のことは城内のイベントでそこまで神経質になることはない、と参加を拒否したが、どうしても身元確認には穴が生じてしまうから、と押し切られた。

名前を偽って誰が入ってきてもおかしくなく、これは仕方のないことだ、とギーヴは言っていた。

顔と名前を全て把握できているのはごくわずかな人だけ。


「俺でも知らねえやついるしな。ティエナは愛想のない態度を取ればいい」

「ちょっと、それは失礼よ」

「あ?目立ってほしくねえんだよこっちは」


またぎゃあぎゃあと言い争いが始まり肩をすくめた。


そう。

私は壁の花。

みんなの目の届く範囲に地味にいればいい。


「ティエナだって楽しんでいいのよ?美味しいものもたくさんあるんだから」

「はい。ありがとうございます」


と言ったものの、思いのほか棒読みな言い方になり誤魔化すために咳払いをした。

食べる気は毛頭ない、とはとても言えない。


「それにしても…化けたな」


ギーヴからボソッとそんなことを言われ目を見開くと、言った本人が声に出ていたことに気づいてふいっと視線をそらされた。

そんなティエナはパーティードレスを着ている。

侍女仲間に自分の存在を悟られないようにするために、リリアナにばっちりと化粧も恰好もコーディネートされたのだ。

短くなった髪は両サイドを編み込まれ、イヤリングやネックレスなども一式身に付け、ヒールで高くなった身長。

もうすでに背中の傷を知っているリリアナの計らいか、ドレスは肌の露出を抑えたデザインではあるものの、光沢のある生地で上質なものだというのがわかる。

色はワインレッドだった。


「その色好きなのかしら、と思って」


ドレスを渡されたときに彼女にそんなことを言われ、僅かに笑って頷いた。

そうして出来上がったティエナは侍女からは逸脱した何かになった。

貴族でもなければ、使用人でも、来賓でもなく、友人でもない。

とても曖昧な存在だ。


「変なやつに話しかけられてもかわせよ。話しかけるなオーラを出せ」


ギーヴの言葉にそんな無茶な、と苦笑したが、目立たないようにすればいいだけだ、と自分に言い聞かせた。

大丈夫、なんとかなる。


「ダンスに誘われても踊れない、と言え。無理にでも引っ張られたら誰でもいいから騎士を呼べよ。酒は絶対受け取るな。いいな?」

「は、はい…」


酒、という単語にビクッとした。

アルコールに弱いことが発覚したためか、彼にそこだけ強く言われてしまい声が小さくなった。

そんなこと自分が1番わかってるのに…


「…そろそろお時間です。参りましょう」


時計を見るとちょうどいい時間だったため、2人をぎこちなくそう促して会場に向かった。

ゲストはもう会場内に案内された後のため、廊下には数人の騎士しかいなかった。

でも全員が武装しているおり、腰にある生々しい剣が警戒していることを物語る。


き、緊張してきた………

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