妖精の涙【完】

疑心






「ギーヴ!」


俺は焦りと怒りでギーヴの胸倉を掴んだ。

執務室に緊迫した空気が漂う。

今は午後の3時。

本来なら一服している時間だった。


「俺だって…なんでも防げるわけじゃねえ。今回ばかりはどうにもできなかった」


勢いよくここに来たわりには覇気がないと思い、なかなか口を割らないこいつを問いただせば彼女がいなくなったことを聞いた。

最近やっと心を通わせたというのに…

評議会がついに動いてしまった。


「おまえこそ心当たりがねえわけじゃねえだろ」


俺はその言葉にキレた。


「俺は何もしていない!」

「嘘つけ!おまえと何かあったから彼女がいなくなったんだろうが!」

「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いて!」



バン!!!

今にも俺がギーヴを殴りつけようとし、ケイディスがその腕を掴んだ時。

激しい音と共にドアが開かれた。

入ってきた人物はツカツカと俺の傍まで歩み寄って来ると、パン、と俺の頬をはたいた。

わけもわからずはたかれた左頬を押さえその人物を見下ろした。


「オルドお兄様…」


そこには両目に涙をためた妹がそこに立っていた。

いつも気が強く堂々としているリリアナがこんなにも感情を露わにしたところは見たことがない。

ぎゅっと服を掴み泣くのをこらえていた。

それを見てギーヴの胸倉から完全に手を離す。


「正直に仰って。ティエナに何をなさったの…?」


年相応のか弱い少女の言葉に俺は目を伏せた。


「何もしていない…眠りこけた彼女を自室に連れ込んだだけだ」

「いつですの?」

「パーティーの日の夜」


パーティーはちょうど1週間前だ。


「ついに手を出しましたのね?」

「違う、誤解だ。彼女の部屋を知らなかったから仕方なく連れてきただけだ。俺はソファーで眠り、翌朝起きれば彼女は先に起き、すでにいなくなっていた」


俺の言葉にギーヴが舌打ちをした。


「評議会の早とちりか…だがおまえの行動にも原因があるからな!」

「仕方なかったんだ!全然起きなかったんだ、あのとき」

「…そうでしたのね」


リリアナの涙はもう引っ込んでいた。


「ギーヴ、報告してちょうだい。他にも何かあるんでしょ?」

「…ああ。悪い知らせだ」


ギーヴは髪に指を突っ込み乱暴に掻いた。


「ティエナはメイガスに送られた」


その言葉に顔の血の気が引いた。


「なんでまたメイガスに?」

「それはまだわかってねえが、メイガスにもこっちの評議会みてえな組織があってそこに連れて行かれたのは間違いない。親父も知らねえところで何かの取引があったみてえだ」


ケイディスの言葉にギーヴが答えた。

しかし俺はもうだいたい想像がついていた。

なぜ彼女がメイガスに連れて行かれたのかの理由が。


「…ラファ、出て来い」

「………」


俺の言葉で隣にスッと現れたラファにギーヴとリリアナが驚いた。


「なんだ?こいつ」

「え?床から出てきたの…?」


ギーヴはそもそもラファを数回しか見たことがなく、リリアナにはまだ成人ではないため妖精については説明していなかった。

ギーヴに至っては恐らくフード姿のラファしか知らないだろう。


「今は詳しいことは省くが、こいつはラファ。俺たちの味方だ」

「うん、そうだよ。ちょっと特殊な人だけど敵じゃないから」


ケイディスも知っている人物ということがわかり、今はそういうことにしておこう、と2人はとりあえず頷いてくれた。

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