妖精の涙【完】





その頃、目を覚ましたティエナを心配そうに見つめる少女がいた。

とっさに声をかける。


「あなたは…」


見慣れない部屋のベッドから体を起こそうとしたが痺れがまだ残っているせいで起き上がれず大きく息を吐いた。

そんな様子を見る茶髪の彼女はアゼルと同じような赤い目をしていた。


「私はミレア・メイガスと申します。兄よりあなたの様子を見るように言われました」


やっぱり。

この子はアゼルの妹だ。


「ミレア様、ここは…」


きょろきょろと自由の聞かない首を僅かに動かして辺りを回した。


「客室の1つですが、最も離れにある宮ですので滅多に近づく者はいません」


どうやら隔離されたことに気づき脱力してベッドに体を沈めた。

客室でしかもミレアがここにいるということは少なくとも今は変なことはされないだろう。


「私もあなたについてお聞かせいただいてもよろしいでしょうか…?」

「はい、もちろんでございます」


メイガスに連行されたのはまず間違いないが、彼女に罪はない。

しかも自分の正体も知らないようだったし、ここにいる彼女からできるだけ多くの情報を得る必要がある。


「私はフェールズ王国第1王女、リリアナ様の侍女でございます」

「侍女、ですか?なぜ侍女のあなたがこの様なところに?」

「自室でいきなり襲われ薬を吸わされ、気づけばここに…私にも何が起こったのかよくわかっておりません。さらに、今は体に痺れが残っておりこうして話すので精一杯のようです」

「そうなのですか…しかし、兄がその様な乱暴なやり方で連れ去るなど信じ難いことです」


うっ、と心が痛んだ。

それには同感で、1度返されたしこんなことする人に見えなかった彼からは想像もつかない現状で正直ティエナも混乱していた。

またあの変な老人が一枚噛んでいるのかもしれない。


「アゼル様は私についてなんと仰られていましたか?」

「ただ、様子を見て来い、とだけ」

「そうですか…」


ということはアゼルは今回の騒動を把握済みということだ。

でもそれ以上はちっとも重要な情報が集まる気配がなく肩の力が抜けてしまった。

世間話をしていた方がまだ楽しいかもしれない。


「ところで、ミレア様は何歳なのですか?」

「15歳です」

「それではリリアナ様よりもお1つお若いのですね」

「そうなのですね。私は元々病弱で、あまり城から出たことがないのです。そのため兄には心配や迷惑ばかりをおかけしてしまっていますし、じいやにも無理をさせてしまっています。国内や城内のことには詳しいのですが、外のことはあまり…」

「そうでしたか。それなら楽しいお話をしませんか?」

「え、ええ…構いませんが」


そんな勢いにたじろぐ彼女に思わず苦笑した。

いけないいけない、がっつきすぎた。

ベッドに横になったら最後、暇という暇がやって来るのは目に見えていてどうしてもミレアを引き留めておきたいという気持ちが強かった。

目を覚ましたことを兄に報告します、なんて言われたら引き留めるのは難しい。

だから少しでも長くここにいて欲しかったのだ。

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