妖精の涙【完】
「今までのはどこからの情報だ。引退後の情報もあるはずだ、まさか全部盗み聞きしていたわけではないだろう」
「ふん、教えられんわい。わしにとっては大事なお方なんじゃ」
「大事なお方…?」
ケイディスが呟くとじいさんは鼻で笑った。
「メイガスの情報網を侮るでないぞ。知らんふりをしたが、お主らのここまでの動向は全てわしの耳に入っておる」
「おいじじい!俺らの足止めが目的か!一体何者なんだよ!」
今度はギーヴが憤慨すると老人はそっぽを向いた。
「わしは今はただのじいさんじゃ。以前は陛下の側近として働き、わしの娘が現国王の母親じゃ」
「なっ…」
とんだ爆弾発言が投下され見事に言葉を失った。
「お主らは王の子を助け、わしはバレスの野望を打ち砕き居場所を取り返す…どうじゃ、わしと手を組まんか。わしは城に直結する地下通路のありかを知っておる。ここから最短ルートじゃ。外はさぞ寒いであろうのう?ここまで来るのにもうすでにヘトヘトなはずじゃ」
「僕は話に乗りたい。信用できるかは別として利用価値はあると思う」
老人の提案にケイディスが先に手を挙げた。
「俺もケイドと同じ意見だ」
「ほうほう、賢明な判断じゃ」
ギーヴも手を挙げ、オルドも迷うことはなかった。
「その話、乗らさせていただこう。改めて紹介しよう。俺の弟のケイディスと評議会役員のギーヴ・ポーガスだ」
「ほう、王子とポーガス殿のお子さんか」
「親父を知ってんのか?」
「以前接待を受けたことがあってのう。そうかそうか、あの男の息子か」
では、と老人は手早く身支度を整えた。
そしてあろうことか部屋の床に斧を突き立て、バキッと木を割った。
驚くオルドたちを尻目に老人が木片を取り除いていくと、床下から現れたのは階段だった。
「元々この小屋は城から脱出したときに身よりを寄せるところじゃ。作られてから1度も使われることはなかったがの」
これまで大人しくしていた犬が主人に呼ばれて立ち上がり、誰よりも真っ先に階段を下りて行った。
それに続いて老人が下り、ギーヴが下りて行く。
「あの物語の男の子もこんな感じだったのかな」
「どうした、いきなり」
「なんか…こんな状況でワクワクしてる僕っておかしい?」
暗闇で見えない階段の向こうを見つめた。
「…わからなくもない」
そう言えば、と思った。
最初は怒りや焦りがあったものの、今は落ち着いていることに。
ワクワクとまではいかないが、今まで足を踏み入れたことのない領域に土足で入って行っているのは確かで、このときは山道でヘトヘトになりろくに食べていないというのに全く眠くなかった。