妖精の涙【完】



ティエナは引っ越しをした。

侍女の寮から王宮へと。

半分になった部屋は今はもうもぬけの殻で、来た時からさほど増えていない荷物を抱えてお別れをした。

スーがベッドに座って手紙を読み涙を流していたときがもう懐かしい。


さきほど抱きしめられた後、リリアナに話しを聞かされた。


「本当はスー・ラングを迎えようと思っていたんだけど、まさか愛の逃避行をするなんて思っていなかったわ」


そこまで事情を知っていることに驚いた。


「それであなたに白羽の矢が立ったのよ」

「私、ですか?」

「ええ。あたしはお嬢様と役立たずが大嫌いなのよ」


いきなりそんなことを言われ面食らった。

庶民で働き者だから自分になったのだろうか…


「感謝なさい。あなたみたいな面白い人があんなところで埋まっていてはもったいないわ」

「はい…」


よくわからないまま返事をすると頭を撫でられた。

1つ年下の彼女はティエナよりも背が高く、王族としての誇りがあるのか堂々とした出で立ちだった。

そんなリリアナから紡がれる言葉を根拠なしにすんなり受け入れていた。


「あたしはあなたの履歴書の下半分には興味ないし、読んでもいないわ」


え、と思って顔を上げると明るい笑顔があった。


「あたしはあなたの仕事っぷりと推薦をもってお願いをしているの。ここであたしのお世話をなさい。あなたの過去なんて知らないけど、これからの未来はあたしが保障するわ。だからあなたの人生、あたしに預けなさい」


どどーんと、と彼女が胸を叩くから思わず笑った。

でも推薦とはなんだろうか。


「スーには前から打診していたのよ、キャリアを見込んであたしの侍女にならないかって。でもずっと断られていて諦めていたところであなたを推薦してからこの逃避行でしょ?もうお手上げだったわ」


やられたって感じ、とリリアナは肩をすくめた。

ずっと断っていた、ということは少なくとも彼女もここをいずれは離れていくことを考えていたことになる。

もしかしたら2人を刺激したことはお節介だったのかもしれない。

でも、ちょうどいいタイミングだったと思いたかった。


「それで、返事をちょうだい」


リリアナのところで働くか、馴染めていないあそこに戻るか。


「…謹んでお受けいたします」

「そこは喜んで、がよかったのに」

「喜んでお受けいたします、リリアナ様」

「うふふ、そういう素直なところ好きよ」


と、また抱きしめられた。

どちらが年上かわからない、と思ったが1つしか違わないのだと気が付き納得した。

同じくらいの歳月をどう生きるかによって同じ人でも雰囲気は変わると考えられている。

リリアナの性格も自分のひねくれた性格も今までの積み重ねの結果なのだ。


「これからよろしくね、ティエナ」

「はい。よろしくお願いいたします、リリアナ様」


ここに1つの契約が生まれた。

私の大事な契約だ。

途中で投げ出したりしない。

こうして求められている限りは…




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