妖精の涙【完】


俺とソーマが手短に事情を説明している間、リリアナはティエナとオルドに声をかけるか迷っているようだった。

すっかり以前の容姿とは変わってしまい困惑するのはわかる。

だが、声や顔つき、眼差しは以前のままでやはりティエナなのだと実感できる。

俺たちが話し終えると、リリアナは何かに気づいたのかまた奥に走って行ってしまった。


「おい!どこ行くんだ!」

「ちゃんと戻って来るわよ!」


思わず叫ぶと声だけの返事が返ってきてため息をついた。

彼女がそう言うなら戻って来るんだろう、と思う。


「どうかお願いいたします。お兄様を…メイガスを救っていただけませんか!もう国は関係ありません。被害を最小限に食い止めなければ…!」


ミレア王女が顔を歪ませて頭を下げてきたがケイドが頭を上げさせた。


「取り合えず機動部隊は向かわせたけど、物資部隊もあとから向かわせる手筈になってるよ」

「そうか」

「ありがとうございます…!」


俺が頷くとミレア王女がお礼を言い、その場に泣き崩れて両手で顔を覆った。

じいさんが彼女を落ち着かせようとその両肩に手を添える。

そんな2人を一瞥し、再びソーマとラファに向き直った。


「そちらにも仲間がいるみてえだが」

「みんなラファの幼馴染さ。生きていると信じて今まで暮らしてきた連中でね、今この瞬間ラファに飛びつきたい衝動を抑えているところさ」

「ソーマさんやめてくださいよ、恥ずかしいじゃないですか」

「そうですよ、今は他にやるべきことがあるんですから」

「まあ、こんな具合で可愛い奴らだよ」

「あーそうかい」


そのやり取りを心底どうでもよいと思った。

そして俺はぐるりと周囲を見回した。


「じゃあ作戦会議だ」


くそ、オルドめ。

なんで俺が仕切んなきゃなんねえんだよ。

早くその目、覚ましやがれ!

俺は眠りこけるオルドを睨みつけた。


そして再び顔を上げ、俺の作戦、いや、指示を告げた。

まず、ケイドはソーマの仲間に運んでもらいアゼル殿と合流し兵の連携を取ること。

ソーマ、ラファは契約を解き次第メイガスに向かい、妖精王に会い攻撃を止めるよう説得すること。

リリアナとミレア王女、じいさんはここに留まり負傷者の手当に使う物資を侍女と協力して集めること。

俺は守備部隊を配置させ、食糧や救援物資が揃い次第、物資部隊を向かわせ自分もついて行くことにした。

なんとしてでもフェールズに被害が来るまでに食い止める!


そしてそれぞれが散り散りになったとき、やっとリリアナが戻ってきた。


「おまえどこ言ってたんだこんなときに」

「あなたたちこそどうかしているわ」


彼女にキッと睨みつけられ、手に持っていたものを見せられる。


「こんなボロボロの服で寒くないわけないじゃないの!」


そこにはワインレッドのコートがあった。

リリアナはティエナに近づきさっとその肩に被せる。

確かに今まで目を逸らしてばかりいたからか、薄着でしかもボロボロになった恰好を見てとっさに顔を背けた。


「…お兄様」


しかし、やはり気まずいのかティエナとの接触はそれだけでオルドにも小さく声をかけることしかできずすぐに引き下がった。

ティエナはそんなリリアナをぼーっと眺めているだけだった。


「ミレア王女、あたしについて来て。案内するわ」

「ええ…よろしくお願いいたします。じいや、行こう」

「はい、行きましょう」


3人が去るのを見送り、俺も自分のやるべきことをしようと思った。

本来ならオルドの治療をした方がいいが、ティエナのあの様子じゃ無理だろう。


「悪いが…頼んだぞ」

「ああ」


ソーマが頷くのを見届け、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

本当は立ち合いたいが人手不足は免れず、歯がゆさを感じながら階段を猛スピードで駆けおりる。


ティエナ…


オルド…


本当にすまない…






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