妖精の涙【完】





これは夢だ、と気づいたのは何がきっかけだっただろう。

私は以前暮していた家の中にいた。

誰もいない。

外に出ても誰もいない。

静かな世界がただ広がるだけ。

畑に向かうと一面に咲いているリトルムーン。

でも出荷されることはなく、ずっと咲いていた。

風に揺れて頭をゆらゆらとさせるだけ。

ゆらゆらと。

ゆらゆらと。


穏やかだった。


しかし、リトルムーンは枯れた。

揺れていた頭は項垂れ変色した花びらが落ちていく。

なぜ君たちは咲いていたの?

枯れるため?

こんな誰もいないところで?


…そっか、と気づいた。


君たちは誰かに見てもらうことが生きる意味だったんだ、と。

私だけでなく、もっと多くの知らない人に。

それを知らずに私は謝っていたのだ。

私は見てもらいたいと願うイエローコリンの手助けをしていたのに。


そのリトルムーンを見る人の顔を想像してももやがかかってわからない。

でもリリアナ様は好きだと言ってくれた。

1輪の花を見ていたときの表情はどんなだっただろう。

どんな眼差しだっただろう…


「…ごめんなさい」


想像できなかったのではなく、想像しようと思ったことがなかっただけだった。

どんな顔をして買い、どんな理由でリトルムーンを買うのか。

勝手に悲観的になっていた。


きっと笑った顔で、自分を含め誰かを笑顔にさせたくて買っていたんだ。

珍しい小さな薄黄色い花を見せたくて買っていたんだ。


イエローコリンの花言葉は平和の象徴、祝い。

リトルムーンの花言葉は…


「宝物」


誰かが耳元で囁いた。

振り返っても誰もいない。


でも、そうか。

宝物か。


「私の小さな月」


あなたは私の宝物。




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