妖精の涙【完】

新人



今日はもう遅いから、ということで仕事は明日からになった。

荷物を侍女専用の寮に運ぶと、ティエナはその先輩と同室だということがわかった。


「一応中央にしきりのカーテンをつけられるんだけど、使う?」

「たぶん使いません」

「よかった。今はついてないからわざわざつけないといけなかったのよ」


部屋は机とベッドとクローゼットがシンメトリーに配置されていて、その真ん中を割くようにカーテンを取りつけられるようになっているらしいが、見られて恥ずかしいものはこれと言って無い。

それに、せっかく誰かと同じ部屋にいるのだから仕切ってはお互いにぎこちない空気になると思ったのだ。


「荷物は他にある?」

「いえ。これで全部です」


その言葉に横に首を振った。

きっと遠まわしに荷物が少ないと言われたんだと思う。

あとから送られてくる物もない、と言うと気まずそうな顔をされた。


「ごめんなさい。もっとストレートに言えばよかったわね」

「いえ気にしないでください。私もこれだけ? と、まとめた後に思いましたから」

「あら、本当?」


口に手を当てて笑われ照れくさく感じた。


「制服はもうクローゼットの中にあるから、あとでサイズだけ確認してね」

「もう着てもいいですか?」

「それもそうね。いつまでも私服のままだと出歩きづらいし」


ということで黒い制服に身を包み鏡を見ると我ながら似合っていると思った。

普段もそう大差ない恰好をしているからかもしれない。


「あら、しっくりきてるっていう顔ね」

「普段も黒い服ばかり着ていたので…」

「そうなの?明るい色の方が似合うと思うんだけれど」


スーの言葉にティエナも、そうなの? という気持ちになった。

黒は落ち着く色だと思う。


「まだまだ17歳なんだから、いろいろな色の服を着てみると楽しいと思うな。ピンクなんてずっと着られる色でもないんだから」


ティエナは、今でも着られませんが、と苦笑した。

理由はすごく目立つから。


「さて、荷解きが終わったことだし食堂に行きましょう」

「食堂ですか?」


夕食にはまだ早い時間だ。


「食堂でみんなのご飯を作るのも仕事のうちよ。覗きに行きましょう」


部屋を出て彼女の後ろをついて行くと寮の中にある食堂に着いた。

いい匂いがもうしてくる。


中に入ると長いテーブルに椅子がずらりと並び、受け取りと返却のカウンターの横には水がためてあり厨房の奥に繋がっていた。


「ここで自分で食器の汚れをある程度落としてから奥に流れる仕組みになっているの。今は止まっているけど、食べ終わる頃には水が常に流れるようになるわ」


浮かんでいる食器を奥に流す人、奥で洗う人、洗剤を流す人、拭く人、消毒する人、しまう人、というように役割分担をしてこなしていくらしい。


「侍女は全部で何人いるんですか?」

「100人ぐらいかしらね」

「…それは多いんでしょうか?」

「うーん、どちらかと言えば少ない方ね。多いところは1000人いるところもあるって聞いたことがあるわ」


それではここは少ない方なんだな、と思った。


「あと、仕方ないけれど調理当番になったらみんなよりもご飯を先に食べないといけないのよ。お腹いっぱいの状態でいろいろするわけだから、胃の中はなかなか休まらないわね」


そう聞いて、お腹が重い状態で動き回るのは慣れないとつらいかもしれない。

と思いながらキッチンの方を見るとちょうど先輩方が食べているところだった。


「味見も兼ねて先に食べるのもあるけど、やっぱりあそこにいる人たちが感じる一体感が一番深まるのは、今のあのときかしら。とにかく褒め合うのよ」

「褒め合う…?」


食堂の外にいったん出てからも話は続いた。

まだ時間があるから浴場も案内してくれるそうだ。

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