隣の寝室
タイトル未編集
「今日越してきた、宮内鈴です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくお願いします。僕は久保です。」

新しく越してきたマンション。都心での近所付き合いは希薄な傾向にあるとはいえ、やはり隣人には挨拶に行くべきだろう。そう考えて軽い気持ちで隣人の家のインターホンを鳴らしたが、隣人が想像よりはるかに整った容姿をしていた。ラフな格好で出てくるんじゃなかった。私は若干の後悔を胸に新居の片付けを始めた。


その日の夜。
引越しの疲れもあり、早めにベッドに潜り込んだはずだったのだが、すでに日が変わろうとしていた。原因は一つ。先程訪ねた隣の部屋からベッドが激しく軋むような音がひっきりなしにしているのだった。マンションの壁が薄いのだろう。私は音を遮断するようベッドに潜り込んでなんとか眠った。
しかし、その日で終わりではなかった。その次の日もまたその次の日も、夜になると同じような音が響く。耐えようにも耐えられない。学生として、睡眠は必須である。そう考えて翌朝、私は意を決して再び隣人の家のインターホンを鳴らした。

「おはようございます。どうなさったんですか?」
「あの、夜、そちらから物音が聞こえるような気がして、うるさいわけじゃないんですけど」

私が要領を得ないぎくしゃくとした説明をすると、隣人の男が合点がいったようににっこりと笑った。

「ああ、申し訳ないです。僕よく家にセフレとか連れ込んでて。しばらくお隣もその隣も人がいなかったので、ちょっと感覚そのままでした。もう少し気を遣うようにします」

はきはきとした口調で、とんでもない事を言った。私は一瞬唖然としたがそうですか、お願いしますと呟いて自室に戻った。

だが、その日の夜も、明らかに同じ種類の音が響いた。さすがにそれはないだろうと怒りがこみ上げてきて、部屋着のまま肩にカーディガンをひっかけて部屋を出るとそのまま隣人の部屋の扉を叩いた。

「あれ、どうしたんですか?」
「どうしたというか、また同じじゃないですか。本当に全然寝れていないんです。勘弁してください」

私が疲れきった表情を隠しもせずに捲し立てると、男が「それ」と言いながら指差してきた。

「それ、下着きてないよね。ちょっと透けてるし。宮内さんでしたっけ、迷惑とか言いながら実は一人暮らしの寂しさを紛らわしてもらいたいんじゃないんですか?」
「何言ってるんですか...」
「いいよ、入ってください。ちなみに今日は僕別に変なことしてたわけじゃなくて、ベッドの上でストレッチしてたんです。ほら誰もいないでしょ」

男が言う通り、誰かいるようには見えない。じゃあ私の勘違いだったのか。そう思うと少し頰が熱くなった。男が再び入っていいよ、と言った時、私はなぜか素直に玄関に足を踏み入れてしまった。

「なんだ、意外とやる気だ」
男が整った顔で悠然と微笑む。途端に焦りが込み上げてきた。私は何をしているのだろう。
「やる気とかじゃないです。ただ、入っていいよって言うから」
「それってやる気ってことじゃないの?でも宮内さんがどういう気だとしてももう関係ないよ。僕がそういう気になっちゃったし」男はそう言いながら私の背中に手を滑り込ませた。一瞬の動作に身を硬くする。
「ほら、本当に下着つけてないじゃん。だめだよそんなんで僕の部屋に言われるがままに上がりこんじゃ。もう遅いけどさ」

覆い被さってくる男を、私は強く拒否しなかった。や、と短い声が出たがそれが男の行為を諌めるものではないと十分に自覚していた。男の唇が私の唇に重なる。そのまま舌で歯列をなぞられ、舌を絡めとられる。数秒間口内を味わうように蹂躙されると、気持ち良くて、力が抜けそうになる。男はそんな私の様子を眺めてふふ、と笑った。そして慣れた手つきで私の部屋着のシャツのボタンを一つ一つ、外していく。
「ま、待って」
「待たない」
短く答えると、全てボタンを外し終えたシャツを優しく脱がせる。胸に顔を埋めて乳首を嬲るように舌を這わせた。声を出すまいとしても、息が、漏れた。
「声出していいよ。この部屋、一番端だし。隣は留守だし」
私の考えてる事を見抜くように言った。続けて気持ちいいんでしょ、と耳元で囁かれる。男の長い指が、下着の中に入って私が濡れているのを確かめた。形を確かめるようになぞり、やがて突起に触れると、そこを何度も弄る。
「嫌、」
思わずそう言うと、予想外に男の手が止まった。
「じゃあやめる」
そう言う彼の真意が分からなくて、その顔を見上げると、その表情で意地悪をしているのだと分かった。しかしすでに彼とこのまま最後までしたいという気持ちは抑えようがなかった。
「もっとして」
自分の口から出た陳腐な言葉に赤面する。男はそれを聞くと俺のも気持ち良くしてよ、と言って私の手を掴み、自分の股間にあてがった。そっとジーンズのファスナーを下に落とすと、その膨らみがわかった。私はパンツも脱がせて露わになった隆起したそれを咥えた。歯を立てないようにして、上下に動かす。男の顔が苦しそうに歪み、気持ちいいのだとわかる。口の中で大きくなるのを感じて愛おしさを覚えた。男が焦ったように「待って、中、挿れたい」と言うのを聞き、ようやく口を離した。すると彼は私の脚から下着を下ろし、避妊具を着けた自身のそれを、我慢ができないというように私の中に挿れていく。あまりの気持ち良さに頭が真っ白になった。私の口から私のものとは思えない喘ぎ声が溢れる。何度も私の中を出たり入ったりすると、気持ちいいところと彼の物が擦れてその度に私は彼にしがみついた。いく、と呟いて彼が激しく動く。悲鳴が出そうなほど気持ち良くて、早く抜いてほしいと願ってしまう。そのうち彼は声を上げて達した。中でどくどくと脈打っているのを感じる。彼はそっと自分のものを抜くと、頭を撫でてくれた。
「気持ち良かった。君が来てくれるんだったらもうセフレとか呼ばないことにするよ」
その言葉に心が浮き立つのを感じた。容姿のいい男だからなのか、あるいは欲求不満だったからなのか。
「また、来るかも。気持ちよかったし」
私の言葉に彼が微笑む気配がした。
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