冷たい指切り  ~窓越しの思い~

8月

期末テストも無事に終わり

伊藤さんは成績を下げることもなく、むしろ一つ順位を上げていた。



あれから、伊藤さんは樹の好意に甘えて………部屋を借りた。

姉ちゃんも、流石に長すぎる家出に痺れをきらせ………

『幼稚園教師になる』と約束してくれたらしい。

今は、自宅に帰って穏やかな日常を取り戻しているようだ。

学校も夏休みに入り

当番や研修等は有るものの、部活の顧問をしていない俺は

割りとのんびりした夏を過ごしている。

「あぁ~あ、暇だなぁ~」

数学準備室のソファーで、長くなっているのは樹。

昨日の飲み会で二日酔いらしい。

午前中は、頭が痛いとゴロゴロしていたが………

痛みが薄れた今も………やはり代わらずゴロゴロしている。

「暇なら自分の部屋に行って、仕事すればいいだろう!」

キャスターつきの椅子を滑らせ、座ったまま近づいて足でグリグリする。

「和君、痛いよぅ。昔の悪い癖が出てるよ~
それより、ちぃちゃん!今日は来れるって言った??」

ムクッと起き上がって、期待した目をこちらに向ける。

「さぁ~??」

「ええっ!誘ってないの??」

今日は俺の誕生日だ。

何が嬉しいのか、30を目前に控えたこの歳を祝いたがる男がいる。

「せっかく、アンジュの美味しいケーキを注文したのに~
和君、電話してみてよ。」

アホか。

何処の世界に、30前のオジサンの………しかも担任の誕生日会に

自分から招待するヤツがいるんだよ!!

呆れて答える気もない俺に、まだ食いついてくる樹。

「ねぇ~電話してよぅ~」

ウルサイ!!と怒鳴ろうとした、ちょうどその瞬間。

コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「樹先生、いますか?」

声の主は、はぁちゃんこと………望月さんだった。

ドアを開けると

「こんにちは。」と俺に挨拶をしてから

「やっぱり、ここだった。
和也先生の邪魔をしたらダメだって言ったのに。
部活が終わったから帰りますね。。」と

幼稚園の子供を相手にするように話して

「では、先生達……お先に失礼します。」と帰って行った。

「ヨシ!!俺も帰ろう。」

起き上がってさっさとドアに向かう樹。

どうやら望月さんの部活が終るまでの、時間潰しだったみたいだ。

「和君、6時にあの部屋ね。」

あの部屋とは、伊藤さんに貸してる部屋のことだ。

いくら樹が貸してると言っても、女の子が使ってる部屋に

無断で入ることは、許されない。

「オイ!樹!!」

直ぐに追いかけたが、どこにも姿はなかった。

早く帰って、樹の部屋でするように言おう。

再び部屋に入り、後片づけを済まして部屋を後にした。
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