独占欲高めな社長に捕獲されました

 だって、彼が選びきれなかったということは、有名な作品ではダメだということだ。近代の作家も人気の作品は社長の目に触れている可能性が高い。それらは社長も知っているのに、選ばれなかったということになる。

「せめて、社長のコレクションの目録が欲しい……」

 無名作家の作品から選ぶとなると、仕事はますます難しくなる。私の学生時代の専門はベタな西洋絵画で、近代のものは有名な作家しか知らない。

「もうダメだ!」

 分厚い画集を閉じ、昨夜から着たままのパジャマを脱ぎ捨てた。画集とにらめっこしていてもらちがあかない。外に出よう。

 下着のままクローゼットを開けると、一番に目に飛び込んできたのは青。ラピスラズリを砕いて粉末にした顔料で描かれたフェルメール・ブルーのような青いドレス。

 社長に返さなきゃいけないと思いつつ、どうすればいいのかわからないのでうちのクローゼットにかけっぱなしにしてある。それは落ち着いた色合いの服が多い私のクローゼットの中で、明らかに異質な存在感を放っていた。

 たった二日前のことなのに、随分と昔のことみたいだ。あの夜のことは現実からかけ離れすぎていて、時間の流れをわからなくする。

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